凄腕拷問官だと思って話してたのに顔が怖いだけのデリバリー配達員だった

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 命令通りに立ち上がったカンパネラは、そのまま見もせずに自分の服を脱ぎ去った。囚人服と呼ぶこともできぬようなぼろい布切れは、手枷足枷があろうとふたつみっつ紐を解くだけで簡単に脱ぎ落せる。鞭打つには便利な服は、悲しいことに着慣れているのだ。男に脱がされる趣味はないので、とっとと脱いで大人しく壁際で両手を上げる。 「どーぞ。吊るしてよ、新人さん。仕事だろ?」  肩をすくめて声を掛ければ、拷問官は眉間にしわを寄せながらカンパネラの手を天井にくくりつけた。 「上げて落とすってのは常套手段だよなあ。まあ今殴られたところで出てくるのは食ったばっかりのメシだけだけどな! あんたらの知りたいことなんて俺はなんにも知らないもんね」 「時間の無駄だ」 「はあ?」  懐に手を突っ込んだ拷問官は、折りたたまれた紙を取り出す。暗がりでちらりと見えた花の文様を見て、カンパネラは小さく息を呑んだ。 (あの野郎ども。処分したんじゃなかったのかよ……!)    五つの丸い花びらと渦を組み合わせた独特な模様は、たしかにカンパネラが仕事を依頼された国の国章に見えた。 「もらうものをもらえばそれで終わりだ。ビジネスの話をしよう」 「……やなこった」    軽蔑しか感じられない冷たい瞳で睨まれると同時に、カンパネラの体の奥からは異様なほどの疼きが湧き上がってきた。ぞくぞくと体を震わせながら、カンパネラは内心でひたすら首を傾げる。  まあたしかにこういうシチュは燃えるけど、いくらなんでもこれから拷問されますというときに興奮するほど豪胆な性癖には目覚めていない。とすれば原因は一択だ。 「あんた、何か盛った?」  熱い息を吐きながら拷問官を睨みつける。返ってきたのは氷のように冷たい視線だった。カンパネラの顔より下を見つめる視線の先を追えば、ゆるやかに兆し始めた己の物が目に入る。 「変態が」  かっと顔が熱くなる。けれどこんなことぐらいで動揺するのはカンパネラの矜持が許さない。にやりと笑って足をすり合わせたカンパネラは、軽薄に舌を回す。   「なになに? 今日はそういう趣向? メシくれたかと思えばこういうサービスまでしてくれちゃう系? 別にお付き合いするのはやぶさかじゃねえけど、あんたら下手くそだからさ、打たれた傷がいてえのよマジで。痛いのも好きだけどさあ、こういう意味じゃねえんだわ。そんな紙のことなんて知らねえし、俺と遊びたいならここから出てから誘ってよ、いかつい顔のおにーさん」 「傷?」  下手に腸を傷つけられると後がつらいし、おかしな薬をこれ以上盛られるくらいならまだ暴力の方がましというものだ。こんなことならとっとと脱獄しておくんだった。
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