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ぺらぺらと煽ってみるけれど、男は冷めた顔をするばかりで、カンパネラの挑発には乗ってくれない。舌打ちしたかと思えば乱暴に手袋をはめて、男はカンパネラの体に手を伸ばしてきた。やめる気はないらしい。
「あァ……っ!」
「おかしな声を出すな」
「無、茶……んっ、言う、ねえ。あっ、う……きっつい薬、盛りやがって」
「知らんな」
白いクリーム状のものを塗り付けられるたび、体がびくびくと跳ねる。その筆のようなもので体をなぞるのをやめてほしい。どこもかしこも敏感になった今、まさしくそれは拷問だった。
「やっ、あ! うぅっ、くっそ……ふっ」
「耳障りだ」
「ははっ、ふざけんな。……ぁ! やめ、いや、だって……はっ、あはっ、ああっ!」
体をよじったところで吊るされているので動けやしない。筆は背から腰、胸元からへそまで淡々と体をなぞり、そのたびくすぐったさと痛みと快感がないまぜになった感覚がぞくぞくとカンパネラの腰を重くしていった。嬲る言葉ひとつ発さずに、氷のような眼差しの男は延々とカンパネラの体に筆を這わせ続ける。
無遠慮な動きで全身をなぞっていくくせに、敏感な箇所には決して触れないところが余計にいやらしかった。
「おい、足を開け」
「か、んべんしてよ」
「傷が痛むと言ったのは貴様だろうが。別に金は取らない」
どんな嫌味だ、とカンパネラは顔を歪めた。拷問官が見せた契約書を取ってくるとき、たしかにカンパネラは体を使った。金だって脅してむしり取った。
自慢じゃないがカンパネラの容姿は整っている。女相手だろうが男相手だろうが、好色な相手を落として意のままにすることなど簡単だ。一晩過ごした後に脅迫した回数などいちいち覚えちゃいない。
「あんた、どこまで知ってんの……? これ、本当に意味ある?」
主導権を相手に渡してはいけない。相手は何も知らない。知っているはずがない。けれど表情ひとつ変えずにカンパネラを見る拷問官を見ていると、本当にそうなのかと疑いたくなってくる。誰かがカンパネラを売ったのではないか。どこかでミスをしたのでは? 生まれた不安を隠しきれずに口に出せば、拷問官は心外だとでも言うように口角を上げた。
「親切のつもりだったんだがな」
「ふざけんなっ、く……!」
大げさな声を上げてやる余裕もない。どれだけ強い薬を盛ったのか、次第に意識がぼんやりとしてきた。呑み込めなかった唾液が口の端から落ちていく。太もも、膝裏、足の先。びくびくと体を震わせながら、逃げることも耐えることもできないまま、カンパネラは声を上げ続けた。
「あ、ああぁ……ふ、っう……」
「……こんなものか」
ぼんやりとした意識の中で、満足げな男の声を聞いた気がした。男がようやく離れる気配がする。気を抜いた瞬間、それを待っていたかのように筆先がそそり立ったものの先端を撫でた。
「ひ……っい」
絞め殺されそうな声が出た。焦らされ放題焦らされた体がぶるぶると震え、頭がおかしくなりそうな快感がカンパネラを襲う。
(どうせならケツに突っ込まれるまで粘りゃよかった……)
クセになりそうな快感にほとんど白目を向きながら、カンパネラはゆるやかに意識を手放した。
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