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「この黒猫はあなたの犠牲者のひとりでした。あなたが上司である看護師長の車の下に置き去りにしたんですね。なぜならあなたはその看護師長に薬物管理の不手際でひどく叱られましたから。報復として猫を轢かせる目論見だったのでしょう」
西成のもとには院内のトラブル事例の情報が流れてくる。その不手際とは抗精神病薬の紛失であった。
前田はポンポコを発見した時の様子を思い出し、異常性の理由を悟った。
「薬物を盗んでこの子に使ったのね!」
「試しに動物実験しただけよ。致死量を確かめるためのね。どうせ相手は畜生でしょう?」
「畜生」というひとことに前田の怒りが爆発した。
「命をなんだと思っているんですか! あなたを同じ目に遭わせてやる!」
戸塚の髪の毛を掴み取り、力づくで引き抜こうとする。
「痛いッ!!」
「やめなさい、前田さん!」
西成がふたりの間に割って入る。
「止めないでください! 西成先生はどうせ穏便に事を収めるつもりなんですよね!」
「いや、この件は私も許しません。後ろを見てください」
常夜灯の下には同じ格好をした、威圧的な雰囲気の男性がふたり。警官だ。
まさか職場の人間を警察沙汰にするとは、と前田は目を丸くした。驚きとともに感情が冷まされてゆく。
「どうして……警察を?」
「標的が動物から人間に移行した例は多々あります。だから抑止力としての処罰が必要なんです」
西成は前田の眼を見つめ、重々しく呟いた。
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