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午後になり戻ってきた前田は安堵の表情を浮かべていた。
「西成先生、猫ちゃんが復活しました!」
「おお、それは何よりです」
黒猫は入念に傷の処置がされていた。怯えて箱の隅で小さくなっていたが、その丸い瞳には生気が戻っている。
西成が目を合わせるだけで「シャー!」と喉を鳴らして威嚇した。
「しかし、あんなに弱っていたのに、すっかり元気になりましたね。どんな治療をされたんですか」
「傷の処置と、点滴だけです」
「それだけでこんなに元気に?」
「はい。動物病院の先生がおっしゃるには、傷は致命傷ではなかったようです。症状と回復具合からしますと、急性の薬物中毒ではないかと」
「薬物中毒? ネズミ用のねこいらずを口にしたんですかね」
「私もそう思いましたが、症状が違うと言っていました。でも薬物なら点滴だけで回復するのも納得です」
「うーむ、ところでこの猫、どうするつもりなんですか」
箱の中の猫に視線を落とすと、猫は不安気な眼差しでふたりの顔をうかがう。
「もっ、もちろん私が世話します!」
前田は実家通いで母とふたり暮らし。一軒家なので猫を飼えなくもない。
だから強気の返事をしたものの、猫の世話なんて要領がわからない。
そこでふと、ある人のことを思い出した。
「そうだ、病院のスタッフでひとり、猫のプロフェッショナルがいますよ!」
「プロフェッショナル?」
「戸塚真弓さんって方なんですが、緩和ケア病棟の看護師で、個人で猫の保護活動を行っているらしいんです」
「看護師で猫の保護ですか。それは適任ですね。彼女に声をかけてみましょう」
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