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前田は得意気に次の動画を再生する。配信の日付は一週間後だった。
すると猫の傷は癒え、すっかり生気を取り戻していた。体つきもふっくらしている。
けれど、まゆゆんはまだ手こずっているようだ。
「ご飯は食べるようになったんですけど、あたしのことは好きになってくれないようです。根気が大事ですけど、近づきすぎても逆効果なんですよね。いつも思うんですが、絶妙な距離って難しいです」
猫は部屋の中を早足で逃げ回り、まゆゆんは動画に収めようと猫を追いかける。
縦横無尽に逃げ、ときおり振り返って威嚇する。アクション性があって目が釘付けになる。流れる広告に中断されるのがもどかしい。
「戸塚さん、嫌われてますね。当分懐かないでしょう」
「いや、彼女の実力はそんなもんじゃないですよ」
中断して次の動画を再生する。日付はさらにその一週間後だった。
動画を見た西成は、おっ、と小さな驚きの声をもらした。
猫は健康そうに見え、しかもまゆゆんに気を許していた。撫でられてゴロゴロと喉を鳴らしている。すっかり家猫気分のようだ。
「たった一週間でよくここまで懐かせましたね」
「そこが彼女の凄いところですってば。比べたら私なんか全然素人ですよ」
コメント欄にずらりと並ぶ賞賛のメッセージ。
西成も感心しているようで、何度も深く頷いていた。
さらに過去の動画を検索する。彼女に保護された猫の数は二桁に及んでいた。
「ブリーダーも真っ青なくらい、猫ちゃんのハートを鷲掴みしてますよね」
「確かにそうですね。――ところでこの保護猫、最後はどうなるんですか」
「譲渡会で里親希望者に引き渡しているみたいです」
「その動画はあるんでしょうか」
「SNSでの報告だけみたいですね。だって無関係の方が映り込む動画なんて流せないですから」
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