『葦野民話全集 常世の神』

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『葦野民話全集 常世の神』

 葦野(あしの)郡には常世(とこよ)と云ふ(ところ)がある。常世と云へば、大國主神(おおくにぬしのかみ)(くに)造りを行つた少名毘古那神(すくなびこなのかみ)が國造りを終へた後に海を渡つた先が常世の國であつたと云ふが、この地域に(つた)はる話はこのやうなものであつた。  昔葦野の地で疫病が流行つた折、一人の女が東の國からこの地へと流れ着いた。女は三尺ほどの大きさの箱を背負つてゐた。村人が女に「その箱には何が入つてゐるのか」と尋ねると、女は「常世神(とこよのかみ)がおわします」と答へた。  女は「この神を祀れば富と(いのち)(もたら)します」と云つて、村人に財を捨てさせ、道に食事を(なら)べさせた。女が箱を開けると中には赤子ほどの大きさの(かいこ)のやうなものがゐた。それは這ひずると一つの果實(かじつ)を口にした。女は云つた。 「常世神が今御食事を召し上がりました。これにてこの地は神の住まふ地と成りました。この地の人々の病は癒えることでせう」  女の言葉通り、病は(しばら)くの後に(おさ)まつた。かうしてこの地は常世と呼ばれるやうに成つた。
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