演じる猫は見ていた

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人は皆、何かを演じて生きている。 私は何の才能もない、つまらない人間だった。だから、必死に何かを演じて生きた。 職場では無害で真面目な人間を。 彼氏の前では家庭的で穏やかな女性を。 親友の前では頼りがいのあるしっかり者を。 それなのに、私は仕事をクビになって、彼氏を後輩に取られ、久々に会った友人は私に怪しげな壺をおすすめしてきた。 何もかもがどうでもよくなって、私はその日、外まで聞こえるような全力の大声で「ベンガルトラになりたい!」と叫んでふて寝した。 そして。目が覚めたらトラ模様の猫になっていた。 ふわふわの毛に琥珀の色をした瞳。肉球のついた小さな足。三角の耳にヒゲ。縞模様の長い尻尾。言いたいことは全て「にゃー」という音で口から旅立っていく。 あんまりだ。 一応ネコ科にとどまったとはいえ、神様にはもうちょっと頑張って貰いたかった。 ――あと、眠る前の世界とは全く違うこの世界について、何かしら教えてくれても良かったと思う。 どこ、ここ。
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