ちかづく、ちかづく。

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――やべ、帰りちょっと遅くなっちゃったな。  そんな部活に入り浸っていたら、ついつい帰りが遅くなってしまったある日。学校の正門の前に、一人の女の子が立っているのが見えたのである。  長いさらさらとした黒髪が、風に靡いていた。紺色のブレザーに、お洒落なチェックスカートを履いている。背を向けているから顔はわからないが、うちの学校の生徒だろう。 「あ、あの?」  なんとなく声をかけた。昔から無駄にお人よしなんて言われる僕だ。彼女の背中がなんだかさみしそうに見えて、ほっとけなかったというのもある。 「誰かと待ち合わせ?」 「!」  彼女ははっとしたように顔を上げた。僕はドキリとする。白い肌に大きな眼、睫毛が驚くほど長くて、唇は艶やかなピンク色。ちょっと見ないくらい、そう、まるで女優と言われても通りそうなほどの美少女だった。 「待ち合わせ……そう、ですね」  彼女は名札をつけていなかったので、何年生かはわからなかった。ただ、三年生のバッジをつけたまま忘れていた僕を見て丁寧語で喋ったということは、きっと二年生か一年生だったのだろう。 「でも、もういいです。気にしてくれて、ありがとうございます」 「あ、うん」 「それじゃあ、また」  彼女はにっこりと微笑んで、おじぎをして立ち去っていった。もういいですとはどういうことなんだろう?と首を傾げる。同時にあんな可愛い子なのに見覚えがないなんて、とも。  でも。 「ぼ、僕……」  思春期の男子高校生は、単純なのである。 「お、女の子と喋ったぁ……!」  お察しの通り。僕は女の子に全然免疫がなかったし、ほとんどまともに喋ったこともなかった。  しかもとびきりの美少女。舞い上がるな、と言う方がどうかしているのである。名前を聴けば良かった、なんて思ってしまうのは少々図々しいかもしれないけれど。
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