死に花を散る

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 私の今なんて無いのと一緒だと思う。ただ人に悪い思いをさせないように演技を重ねている。良い子供であるために、良い仕事仲間であるために、良い恋人であるために、そんなことをずっと続けている。  今はただその演じている事だがとても苦しくて仕方がない。  子供のころはそんなに悩まなかった。普通に親を喜ばせる事が有ってもそれは苦痛ではない。高校から家を離れて大学、就職で地元からどんどん離れた。 「お母さんそんなに心配しなくても私はちゃんと一般的に暮らせているからね」  時折有る母からの電話に私は常々こんな風に答えている。 「最近元気が無い様な気がするから」 「ちょっと仕事で疲れてるだけだよ」  嘘、ではない。疲れている部分も有る。そんな風に親子の会話を面倒そうに終わらせるけど、これも心配させないため。  どうしてこんなに演技をしないと駄目なのかと自分に問うても、答えなんて見つからない。  それに今はそんなことをしている暇なんてなかった。  持ち帰った仕事がまだ山の様に有る。この頃はそんなものに振り回されている毎日だ。しかし、それは自分に仕事に似合った能力が無いわけではない。他の人の倍の仕事をしているから。 「この前の案件の事で聞きたいんですが」 「ごめんねー。俺の分まで手伝ってもらっちゃって」  確認事項が有ったから代わった仕事の事を聞くために先輩へ電話をすると、その向こうでは子供の楽しそうな声が聞こえている。 「お子さん、お元気ですね。こんな時に独身の私が働かないと」 「救かるよ。家族サービスしないと嫁さんに怒られるから」  代わった仕事を元々担当していた先輩は別に他の仕事が有るから代わったんじゃない。家族との時間を過ごすため。それも重要な事はわかってる。だけど、そのおかげで私の休日が一つ減ってしまっている。  簡単に確認事項を済ませると「お子さんと楽しんで」と良い顔をする為の言葉を残して電話を切った。その途端に自分はバカだとため息をついてしまう。こんな仕事に意味があるのだろうか。解らない。  どうにか仕事をを急いで終わらせようとしていた。休日を丸っと潰してしまう事にはしたくない。私にも一応約束くらいはあるのだから。
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