エピローグ

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エピローグ

 短い夏休みが終わって、静樹が東京に帰る日になった。恋人同士になったからといって一緒に住むとか、地元に帰ってくるみたいな約束まではしなかった。  それでも、帰る日、旭は、見送りに駅まで来てくれた。  朝、実家を出てから、旭の店に来て、ギリギリまで帰るのを渋っていたら、今日中に東京に着く最終電車がくる時間になっていた。 「ね、次、いつ帰ってくんの?」  夕日の沈む、誰もいないホームで電車を待っている間、ベンチに座る旭の膝の上には、駅猫の花子改めキャンディが乗っていて、喉をゴロゴロとされている。それを横目に、うらやましいなと思っていた。――俺は、今から一人なのに。お前は、旭と一緒に居られるんだなって。  恋人が出来たら、次の欲を知った。  好きな人と、もっと一緒にいたい。  そうするために、次に静樹が考えて選ばなければいけないことがまだ沢山あった。  けれど、旭は、静樹に今日明日の答えを迫らなかった。代わりに、何かにつけて、静樹の「欲しい」って欲を煽ってくる。 「冬、休みには、帰ってくる」 「えー、マジで嘘だろ。長いなぁ。まぁ、でも今まで、年単位で帰ってこなかったから、成長したの?」 「だって、仕事ある、し」 「俺、遠距離恋愛は、趣味じゃないんだけどなぁ」  付き合うことは決めた。次に自分が旭と幸せになるために出来ることをしたい。   帰るまでの間、色々考えて、静樹は、今日、もう一歩踏み出そうと思っていた。 「あ、あの」 「なぁに?」  遠くから、電車が近づいてくる踏切の音が聞こえる。早く言わなければと焦った。 「俺のとこ、会いに……来て、ください、仕事のついででも、いいし」 「もちろん。ついで、じゃなくても会いに行くよ。静樹くんの顔を見に」 「あと、うち来たら、マンション泊まって、くれても、いいですよ」 「おい、分かりやすく、がっかりした顔するなよ」  旭は、静樹の腕を引いて耳元で、囁いた。 「顔見るだけじゃなくて、抱きに行くから、つか、本音言うなら、毎日でも会いたいんだけどなぁ」 「俺も会いたい、です」  顔が真っ赤になる。欲しいものを欲しいって言える旭がいて、いまの自分は幸せだと思う。 「メールも、欲しいです」 「えー、メールだけ? 電話はいらない?」 「声も、聞きたい」  そうやって、電車が来るまでの間、一つ一つ希望をすり合わせてる。 「まぁ、とりあえず、最初に、手紙の返事送るかな」 「返事?」 「昔もらった静樹くんの熱烈なラブレターの返事だよ。――アサ兄、次は、いつ一緒に遊べますか? アサ兄としたいことがいっぱいありますって、そんな、エロい手紙もらったら、めっちゃ期待するだろ」 「俺……そんなこと、書いてたんですか? 別に変な意味じゃない、ですけど」 「今の俺、超元気だし。いくらでも遊んでやるから、また、いつでも帰ってこいよ。今度は俺が、ここで待ってるからさ」  静樹は、まだ電車にも乗っていないのに、もう会いたいって思っていた。                 おわり
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