アネの恋人とタワマン

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アネの恋人とタワマン

 姉のせいだ。  姉の朱美がタワマンにアルファの恋人と同棲するために引っ越し作業に駆り出されたせいだ。例の運命の番い野郎は忙しいらしく、承諾なしに俺を作業人としてカウントしやがった。そしてそれはカップラたぬそばというなんとも安い形で返された。 「……ごめんね、物で釣る真似なんてして」 「そ、そんな滅相もないです」  この財布、十万以上は値を張る。買えるわけもなくただ見ていただけでよかったのに……。  俺ごときが、もらっていいのか……。 「そうか、ならいいんだ。いつもありがとう。今日は会えてうれしかった」 「僕こそ会えてうれしいです……!」    ついうれしい声で返してしまう。  ……そうだった。いけない。ここはホテルだった。  と、とうとうなのか。   夏目さんのセリフひとつひとつにドキドキしてしまう。はやる気持ちを抑えて、汗ばむ手のひらを膝上で丸めた。今日の食事の場所はホテルの最上階だ。待ち合わせ場所を指定されたとき、はっとして泊まりなんだと覚悟した。 「その言葉、お世辞でもうれしいよ」  いや、これは本心です。  たっぷりと色気がこもった声がくすぐったい。 「……そうだ。明日ってバイトなの?」 「は、はい! 夜からコンビニのバイトです」  北京ダックを切り分けるナイフが皿にぶつかり、ギッと音が鳴り響いた。夏目さんはにこりと柔らかく笑った。 「……そっか。年末の予定は?」 「あ、バイトです」 「じゃあ、クリスマスは?」 「ライブです」 「……そっか、理久くん洋楽好きって言ってたよね。……そのあとの予定は?」  夏目さんの目が細くなった。 「クリスマス終わったら、リゾートバイトとかですね」  ぴくりと凛々しい眉が上がった。 「……リゾート?」 「泊まり込みでスキー場に行ったり、南の島にスキューバーダイビングに行ったりします」  食欲をそそる見栄えに我慢できず、俺はひょいひょいと薄い皮で包んだ北京ダックを口に入れた。パリパリとした香ばしく焼かれた肉の触感がおいしい。このぐらいは大丈夫だろう。 「どのくらい?」 「へ?」 「……その、どのくらい滞在するの?」  夏目さんは憂いを帯びた視線をこちらにむけた。 「い、一ヶ月ですね」 「……あまり会えないね」 「あ、そんな! 夏目さんを見ていたら、バリバリ働きたくなっちゃって今年も応募しちゃいましたから。えへへ」  恐ろしい姉がいる家にいるより、のびのびと大自然のなかで働いたほうが精神衛生的にいいんじゃないかと幼馴染の努に誘われた。どうやら努は恋人にプレゼントをしたいらしく、金欲しさに俺を誘ったと思われる。 「そっか。図書館の彼もいっしょ?」 「そ、そうです」  今年はさすがに勉強があるし、夏目さんを優先しようと思ったが、試験もまだ先だし、とりあえず金を稼ごうとオーケーを出した。渇いた喉を潤そうと、水を飲んだ。冷えた水が喉を潤していく。 「……そう」
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