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おれの願望と現実の高低差
「……くそ! やっぱり無理だった!」
唯一の友達であるアルファの友達、努がゲラゲラと笑った。
「食事だけなんだろ?」
「うるせぇ。俺は覚悟したんだよ!」
「なにを?」
「……色々だよ」
そりゃアレに決まっている。
オトナだ。セックスだ。
一回やればこの界隈値段がだだ下がりするのは分かっているがそれより俺は恋をしていた。
……夏目さんに抱かれたい。
どちゃくそ好みのアラフィフによしよしいいこと意識がなくなるまで抱きつぶされたかった。怪訝な顔つきの努を横に、俺は雑踏で行き交う人ごみを分けて歩をすすめた。
「へたに手を出されなくてよかったじゃないか」
「……こっちは出されてもいいんだよ」
クリスマスが近いせいか、二組のカップルが手を繋いで目前を塞いだ。どいつもこいつもべたべたと身を寄せ合っている。三密なんておかまいなしだ。
「あー、おじ専か。クリスマス近いからって性癖をこじらせるなよ」
「へいへい」
……もう手遅れだけど。
手をつなごうとしても、指先が触れただけで現金を渡されしまう。夏目さんは触れることすらしてこない。
ああああああああああ!!
昨日は決死の覚悟で勇気を出して迫ったわけだが、まさか二百万も渡されてしまうなんて……。計算より三倍だ。
そんな価値なんてないし。
もうたくさんだ。
……むなしい。
夏目さんはそういうもの一切を金で一線を引いている。理想の推しが目の前にいるのに……、性欲ばっかり溜まっていく。
抱かれたい。抱かれたい。抱かれたい。
あああああああああ!
「……りく、大丈夫か?」
「へ?」
「……なんかすごい顔していたからさ。つうかオジ受けだったらウケるんだけど」
努の妹は腐女子なので、たまに余計な質問を入れてくる。俺よりも性癖を拗らせているので、努×理久のβ受け漫画をTwotterで公開(センシティブ設定済み)しているらしい。
「それは断じてない」
男だったら抱くか抱かれるかクイズ~!(冗談で)をしたこともあり、抱くほうかなぁ……という夏目さんの言質はしっかりと取ってある。
そして、それをおかずにする毎日が続いている。昨日も帰ってから三回抜いた。ため息が止まらず、はやく風呂から出ろと言われて消えたくなったが……。
「…………おれ、オメガになりたい」
「はぁ? オメガなんて超大変だぜ? ヒートとかあるし、番いになんてされたら一生だぞ」
「それ、おまえの恋人じゃん」
「まあ、そういうところがかわいいんだけどさ普段はわがままで口悪いけどさ……。じゃなくて、そのおっさんさ、結構な年上だろ。結婚とかしたいか?」
「俺はしたい……」
同性婚が認められているんだからしたいに決まっている。努はやれやれと肩をすくめた。
——……俺は、結婚したい。
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