アネの運命の番い

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アネの運命の番い

「理久くん、欲しいって前に話したからさ」 「……いや、必要ないです。クリスマスプレゼントももらいましたし……」  たしかに買い替えようとしているが、三月には半額セールがまっている。十二月初旬は購入を避ける時期なので財布の紐は固くしておきたかった。 「あれは違うよ。こないだのはお土産で、クリスマスプレゼントじゃない」 「へ?」 「本当は辞書なんて口実で、君のプレゼントを買いに来たんだ。スノボー一式用意しようとしたんだけど、種類やサイズがたくさんあるから迷ってしまってね。女の子ならアクセサリーとか浮かぶけど、こういうのは本人に選んだほうがいいって甥っ子に言われたよ」 「あ……。大学生の……」 「うん。最近恋人と付き合って笑っちゃったよ。もう子どもじゃないんだね」 「あの……。だ、大丈夫です。そういうのは自分で買います。これ以上、夏目さんに払わせるわけにはいきません」  定価で、板だけでも十万以上はかかるし、ウェアも同じぐらいだ。もちろん板のほかに、バインディング、ブーツとキリがない。 「……そんな。だって」 「本当に必要ないです」 「……ごめん。なんだか野暮なことをしたね」 「……」 「……」  ふたつの珈琲カップの間に沈黙が沈む。 「そろそろ出ようか……」 「あ、はい」  夏目さんは伝票を手に取って会計をした。そのあと夏目さんの携帯が鳴って、そのまま解散となろうとした。やばい、やらかした。三月の半額セールで一気に買うつもりですとか超恥ずかしくて言えなかっただけなのに……やばい。  きらわれた。  なんか変なこと言ってしまった。  俺は夏目さんのコートの裾をそっとつかんだ。 「あの……!」 「ん?」 「やっぱり、クリスマスプレゼント欲しいです。……な、な、……な、夏目さんの部屋に行きたいです……」 「え……」  夏目さんは驚いた目で俺を見つめ返した。 「だめですか?」 「しばらく出張で部屋がすごいことになっているんだ。……うーん、そうだな。片付ければなんとか……」 「本当ですか!?」  ぱっと輝いた俺の目に、夏目さんは迷いの色を顔に浮かべた。 「……明日ならいいけど、夕方でもいい?」 「いいです! 大丈夫です!」 「僕ひとりだよ?」 「はい!」  瞬きもせず、まっすぐに夏目さんを見つめた。視線を逡巡させ、食い入るような目つきにまごついている。 「…………それなら、うん。部屋を片づけて、明日は夕食を作ってまっているよ」 「は、はい!」  勢いよく返事を返した。それでも夏目さんはこまったような視線を泳がせる。そのあと駅まで歩いて、タクシー代プラスお手当を手渡され別れた。  家に戻るなり、姉が仁王立ちになって待ちかまえていた。普通にこわい。 「……で、あんた。忘れてないでしょうね?」 「へ?」 「顔合わせよ。例のおじさまと会うんだから、あんたも同行しろって言ったでしょ!」 「おじさま……?」 「彼氏のよ。同棲するから、ダーが私のことを紹介したいんだって」  ダーという言葉に、ぷつぷつと全身が粟立った。  無茶苦茶だ。  顔合わせなら家族同士でするものだ。 「なんでおじさんなんだよ……」 「はあ? 両親より、周りから固めたほうがことがうまくいく場合もあるでしょ。そんなのジョーシキよ」  どこの常識なのだろう。日本ではないことは確かだ。それでも姉は会心の笑みを浮かべ、両手を後ろに組んだ。 「でも俺、夕方から予定が……」 「約束の時間は昼よ。運命の番いの彼を紹介するから絶対にここに来なさいよ」  バンッと机が軋み、一枚のメモ書きが叩きつけられた。とにかく黙って来いよという命令だ。それは行くしかない。行かねば家を失いそうな勢いを感じた。
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