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貢さんの秘密と安寧
ふたりで夕食を食べて、風呂場で身体を洗い、そのあとはもろもろと、まあ大人の事情的な感じで、おれたちは愛し合った。
そりゃたっぷりと、おれの願望と夢がとろとろに溶けていくようだった。
そして次の日の昼。重い腰を起こして、ふわふわのパンケーキを頬張っていると、通帳が差し出された。ちょうど例の横領事件がテレビで流れていたときだ。
「これ?」
なんだこれ……と通帳をひらくと、ゼロがいっぱいありすぎて金額が読み取れないほどのものが中身につまっていた。
ひい、ふう、みぃ……。
目が点になる。こんな数字、見たことない。まさか、貢さん……かいしゃのおかねを……。
嫌な予感が頭をよぎったとき、夏目さんが重々しく口をひらいた。
「……実はさ、宝くじなんだ」
「へ?」
「僕のお金の件なんだけど、キャリーオーバーで十二億。それも二回。だからお金には不自由しないんだけど、寂しくてね。食事も一人、どこにいくのもひとりだったんだ」
「はあ……」
「兄さんがどうせなら経済回せって、へんなサイトに応募したんだ。そうしたら君と出会って、おいしいおいしいって言って、いつまでもケーキを食べているから久しぶりに笑っちゃったんだ」
そういえばそういう記憶があった。お恥ずかしい限りだ。一つ千円以上のショートケーキを頬張りながら、そんなことを口走ってしまった記憶がある。
「兄さんって努のお父さん……」
「うん」
傍らの皿にフォークをおくと、夏目さんは俺の口もとのクリームを指の腹で拭って舐めた。フルーツが盛りだくさんの遅い朝食は、思いあきらめた夢がかなったものだ。
「……俺の初恋です」
「……え?」
夏目さんの顔に驚きの色が浮かぶが、俺は何事もなかったようにおしゃべりを続けた。
「あ、でも夏目さんはドストライクですきです」
「……そう、そっか」
「な、夏目さん……?」
じっとこちらの顔を見つめられ、ついっと立ち上がった。
「今日はこのまま寝かせてあげない」
「ふぁ……!」
腰をつかまれて、ぺろりとあらぬところを舐められてしまった。
「いまのは君がわるい」
「……んっ」
「いつまでも、たっぷりと愛してあげる」
ぎゅっと力いっぱい抱きしめられ、おれの顔が熱くなった。
「……そういうところ、おじさんっぽくて好きです」
褒めたつもりが、傷つけたようで、ご機嫌斜めになってしまったのは言うまでもない。ちなみにゴリラじゃなくて、姉を味方につけて、俺たちは家族公認の恋人となり、穏便にことをすすめたのであった。
おわり
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