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しかも若さなのか、俺の精力は増すばかりだ。夏目さんのハンカチ(使用済み)をお守りに、俺は努が寝ている横で鬱憤を発散して我慢する日々だった。(このことを考えもせず話したら、静かに怒られたので、もう二度と友人が寝ている横でいかがわしいことはしないと誓った)
そして最終日。夏目さんはおおきなジムニーに乗って旅館まで迎えにきてくれた。雪山用に新車で買い換えたらしい。
ただただ驚いたが、うれしかった。実家まで送り届けてくれて、喜色を浮かべる俺に対して後部座席に一人いる努はただただ黙ってうつむいていた。
夏目さんとの仲睦まじい様子見せつけてしまって、大変申し訳ないことをしたと思っている。
誰だって、友人の目尻の下がった、にやけた顔など目にしたくない。ただ俺を見た瞬間に抱きしめてくる夏目さんも大概だと思っている。
「あんた、また夏目パパ?」
リビング中央のソファーに寝そべっていると、姉が俺の携帯を覗き込んできた。すぐに監視モードになるのでこわい。
「ば、ばか。パパじゃねーよ」
彼氏だ。
「ふーん、べったりね。ま、私もひさしぶりに実家に顔出したわけだけどあんたは夏目さんとうまくやってるし平和ね」
「ほっといてくれ」
「あ?」
「うっ……」
姉は口から先に生まれたような人間だ。ここで歯向かったら一日以上無駄にする。これから夏目さんと念願の温泉旅行にいくのだ。
「はいはい。新婚はいいわね」
「……う、うるさい。姉貴こそ付き合ってるんだろ」
「まあね。若いののほうが体力あるしいいわよ~! ま、努くんはあげないけどね」
ふふんと自慢げに話す姉のうなじには咬み痕があった。
無事に番いになったわけだ。めでたいことだ。姉の番いである努の愚痴は散々耳にしたが、でもやっぱりかわいいんだよなという一言につきる。かわいいは世界を救う。
「かわいそうに……」
「なによ?」
「……いや、なんでもない」
努よ、頑張れ。おまえならこの猛獣と生きていける。ため息を漏らすと、姉に睨まれた。こわいこわい。
そのとき、ぱっと携帯端末がひかった。
「ああ、夏目さん? うん、家だよ。すぐつくの? 俺の服また買っちゃったの? ええ……もう、しょうがないなあ」
どうやら、着替えの服を何着か買って用意したらしい。ボストンバッグに一着しかないのを知っていたのだろうか。
そんなわけで、心配症で過保護な恋人なのは変わらない。
これにて俺のパパ活は幕を閉じる。
ちなみに資格試験にはまだ受かっていない。
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