悩みとニヤニヤがとまらない

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悩みとニヤニヤがとまらない

「あ、いや……」 「どうしてもフルオーダーを一着プレゼントしたいんだ。昔からスーツが好きでね、身体に合ったものを着てもらいたいと思ってるんだ。だから今日は帰国してすぐに店に予約入れてみたんだけど、……やっぱり急に会いたいなんてまずかったよね……」 「ぜ、全然です! 夏目さんからの連絡うれしかったです!」  これは本心だ。  年始年末もあり、夏目さんは多忙を極めていた。度重なる海外出張のせいなのか連絡も少なかった。やっぱり見切られちゃったかな、新しい子でも見つかったのかなと覚束ない毎日だった。  夏目さんみたいな極上あまあま、プラス超金払いのいいパパなんて、一発でオメガ女子にかっさらわれるわけで、会いたいと言われたら悩みなんて吹き飛ぶ。  俺みたいなフリーターとちがって、夏目さんのような極上アルファパパは引く手あまただ。  真っ先に連絡がくると、ニヤニヤしてしまう。推しのイケオジが俺に会いたいだなんてこの上ない幸せだ。  バイト先の客に不法侵入者のような視線をぶつけられたが、俺はルンルンで待ち合わせ場所に向かって今に至る。  もちろんはやる気持ちを抑えて、深呼吸を十回してから数十分置いて、冷静になり(なれなかったが)返信したけど。 「返信もなかなかこないし、こないだドタキャンしてしまったし、怒らせたかなって心許なかったんだ」 「そんな……」 「怒ってない?」 「怒りませんよ」 「よかった。僕の勘違いか。はやく会いたくて気が焦っていたかな」 「う、うれしいです」  ああ、それなら秒で連絡を返せばよかった。あとこの会話を録音したかった。次回はテープレコーダーを持参してみようと思ったとき、夏目さんは隣に置いてあった紙袋から箱を取り出した。 「……これ、おわびじゃないんだけどお土産。はい……」  長方形の包みを手渡され、視線を落とす。赤と緑のコントラストの斜め包みに、まさかのサプライズ。どきゅんと鼓動が高鳴った。 「え……!」 「開けてごらん。気に入ってくれたらいいけど」 「これ……。あ、あの……」 「ブランドものだけど、シンプルで使いやすいものを選んだんだ。どう?」 「ふぁあ……」  空気が抜けたような声が喉から出た。  レザーで編み込まれた黒の財布。以前待ち合わせしたとき、俺が欲しいなあとビルに貼り付けられた広告を見て呟いたものだった。 「連絡も少なかったし、なかなか返信もこなかったからさ。勉強も忙しいと言っていたけど、寒くなってきたし心配していたんだ」  申し訳そうに、夏目さんが細く笑った。 「あ、それは……」
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