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 鶴賀に言われて八村は地面にしゃがむと、パソコンを目にもとまらぬ速さで操作した。葵たちはパソコンを覗き込むと、数十秒してこの新幹線の全車両の防犯カメラ映像が表示された。ぐっすり眠っている人もいれば、携帯やゲーム機をいじっている人、外の景色を見ている人、駅弁を食べている人と様々な人がいた。  葵はどこか引っかかりを覚えて、パソコンに顔を近づける。「どうした?」と鶴賀が言った。 「ハッチーさんここ拡大して」  八村は言われた通りに映像を拡大すると、葵はパソコンを奪って映像を凝視した。「何か見つけたか?」と後ろで鶴賀が聞いてくる。  葵は鶴賀の質問に答えず、パソコンを返すと目的の車両に向かった。「おい、何か言えよ!」と鶴賀が言うがお構いなしでデッキから離れた。その車両には不審な男が座っていた。  首相がいる3号車から少し離れた5号車。葵はその男に背後から近づいていく。勿論、他の乗客にも注意を払って。でも明らかに異様な男に目が吸い寄せられた。  この車両の冷房は26℃だろう。少し涼しいという体感だ。しかしこの男だけは、ハンカチを握りしめて、時より汗を拭っていた。  葵はそっと男に近づいた。隣に誰も座っていないことを確認し、男に会釈してから隣に腰掛ける。男は不審そうに葵を見たが、彼女が女で軟弱そうに見えたのか、特に身構えることもなく汗を拭った。 「ウ゛ッ」  葵は手で口を覆い、体調が優れない態度をとった。突然の豹変に男は困惑したように葵を見つめる。葵はさらに吐きそうな声を出す。 「だ、大丈夫ですか?」  男が尋ねると、葵は死にそうな顔で首を勢いよく横に振った。 「え、あ、ちょ」  葵は男の腕を掴んだ。目を潤ませて「助けて」と目で訴える。 「た、立てますか?」
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