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 ニコッと笑顔のまま言う。本物のサイコパスだな、と葵は思った。鬼塚の体はリラックスしているのか背もたれに背中を預け、手には力が入っていない。肩の力も抜けているようだ。対して葵は全身に力が入っており、手は自然と拳の形を作っていた。これではまるで立場が逆のようだ。鬼塚が警察で葵が犯罪者。 「どうして、あの事件を起こしたんですか?」 「当時俺は若頭だったんですけど、どうも組長の考えには賛同できなくて。俺と同じ意見を持った舎弟たちがいたんで、そこで派閥を作ったんです。勿論俺らに対抗して組長も派閥を作りました。それが組長派と若頭派です。それで拳銃を交えた喧嘩が勃発しました。勝てば俺が組長になって、俺の思い通りに組を動かせるからです」 「ヘヴンタワーでその抗争をしたのは何故ですか?」 「開けた場所だからです。後は、純粋に自分の名前を知らしめたかったから、ですかね」  「は?」と葵は呟いていた。鬼塚は机に肘をついて、葵との体の距離を縮める。葵は生理的に受け付けないのか、椅子を後ろに引いた。 「自分の名前を世に知れ渡らせたかったんです。俺の夢はこの国を変えること。だから三田くんにも協力しました。結果は残念だったけど、彼なら変えられるんじゃないかって途中まで信じてましたよ」 「名前を知れ渡らせたかった、とはどういう意味ですか?」 「そのままです。俺という存在を世に知らせたかった。だから敵もギリギリ警察が来て俺の名前を言えるぐらいの殺し方をしました」  理解ができなかった。その為にわざわざ一般人も沢山いるヘヴンタワーで抗争を起こしたのか。「狂ってやがる……」と葵は吐き捨てた。 「一般人を巻き込んだのは何故ですか?」 「一般人を巻き込んだ方が大々的にニュースで報道されるからです。すべては俺という存在を世に知れ渡らせる為、ヘヴンタワー事件を起こしました。殺した人たちには申し訳なく思ってます」
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