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 鬼塚がニタァっと笑った。葵は鬼塚の胸倉を掴んで、勢いよく立ち上がった。書記官がすぐに葵を抑える。しかし葵はそれに対抗して、鬼塚の胸倉を掴みながら彼を鋭い目で睨んだ。 「煽ってんの? 申し訳なく思ってないでしょ」 「思ってますよ」  鬼塚が鼻で笑いながら言った。葵はチッと大きな舌打ちをすると、鬼塚の胸倉から手を離し、再び着席する。ピリピリとした空気感がさらに流れた。鬼塚は笑顔を崩さない。その仮面を被った表情に葵は苛々した。 「他に告白できる罪はありますか?」 「いっぱいありますよ。薬もやってたし、拳銃だって持ってたし、器物破損、盗難、色んなことやってます」  これだけあったら全てを起訴するまでに時間がかかる。沢山の罪があることは知っていたが、まさかここまでとは。葵は頭を抱えた。ハァっと静かに溜息を吐く。 「どうして、そんなに罪を犯せるんですか?」 「朝田さんには分からないでしょうね。全うな人生を過ごしてきた貴方には。人間って、一度罪を犯したらもう逃れられないんです。万引きを一度して、捕まらなかった人が再犯するように。依存なんですよ、犯罪って」 「全うな人生を過ごそうとは思わなかったんですか?」 「思ったよ」  突然、鬼塚が鋭い口調で言った。先程までの穏やかな声のトーンとは代わり、葵もビクッと体を震わせた。 「でも、無理だった。環境が恵まれてなかった、お前と違ってな」  再び鬼塚が笑顔を浮かべた。葵はその表情の変化に心臓を押し潰されそうになった。気味が悪い。この男は、一体何がしたいんだ。 「どうしてそんなに素直に罪を告白してくれるんですか? 今までの貴方からは想像できません」 「だって、俺は沢山の罪を犯してるからな。全部告白したら、全部を起訴するのに時間がかかるだろう? それに、どうせ俺は死刑になるだろうし、抗えるなら抗わないとさ」  ヒヒッと彼が笑った。  葵は眉を顰めた。「どういう意味だ?」
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