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 珍しく鬼塚が感情を剥き出しにしていた。葵は冷ややかな目で彼を見た。いつしか小川に言った台詞を思い出す。 「殺せるもんなら殺してみろよ。あんたには無理だから。堕ちた人間より這い上がった人間の方が、強いんだよ。派閥を作って群れるお前より、私の方が強い。何事も粘らず暴力で解決してきたお前より、粘り続けて耐えてきた私の方が全然強いから」  「殺す!」と鬼塚の罵声を浴びながら、葵は取調室を出た。外では夜野が壁に背を預けて立っていた。 「夜野さん……何で」 「鶴賀さんに呼び出された。取り調べ、見てた。よく頑張ったな」  夜野はそのまま廊下を歩き始めた。葵は「夜野さん!」と声をかけた。夜野が振り返った。 「鬼塚より、朝田の方が強いよ」  そのまま夜野は歩き出した。葵はその言葉が心の支えになった。夜野は嘘を吐かない。彼が言う言葉は真実である。つまり、夜野は鬼塚より朝田の方が強いと思っているということだ。それがどれだけ嬉しかったか。頑張ったな、と言ってもらえてどれだけ励みになったか。  葵は夜野に向かって深々とお辞儀をした。 「ありがとうございます!!」  バディを組み始めた時の夜野から、こんな言葉が出るなんて想像もできなかっただろう。出会った当初は苛々ばかりしていたのだから。  過去の自分に伝えたい。夜野は、葵にとってだ。 「夜野さん、待って!」  葵は夜野の後を追った。心には新たな決意と強さが宿っていた。どんな困難が待ち受けていようとも、彼女には夜野という最高のバディがいる。葵は、ニコニコしながら夜野の隣を歩いた。 「何だよ」 「嬉しいだけです。気にしないでください」 「気持ち悪い」  夜野の暴言に葵はムッとした表情を作った。でもすぐに笑顔になって、彼の隣を追うように歩いた。
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