エピローグ

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 蝉がミンミンと元気よく鳴いていた。葵は真昼と一緒に、両親の墓参りに来ていた。去年のお盆に来た時に手向けた花は、お寺の職員によって撤去されていた。葵は新しく買ってきた花を手向け、水を墓石にかける。 「お母さん、お父さん、久しぶり」  そう言って線香を手向けた。両手を合わせて、目を瞑る。  葵の自宅謹慎はその後、一ヶ月間続いた。夜野は既に謹慎が解除されたそうだ。葵だけが自宅謹慎を命じられたままだった。  葵が謹慎中、再び警視庁に呼び出されることがあった。その時は鬼塚の取り調べではなく、米村に呼び出されたのだ。初めて入る警視監の部屋に緊張しながらも、葵は米村の話にじっと耳を傾けた。  米村がどうして《何でも屋》を設立したのか、彼の野望、そして彼の過去。葵は米村の過去を聞いた瞬間、涙が止まらなかった。まさかあの日助けてくれた人が生きていたなんて思ってもいなかったからだ。あの現場に参戦していたSATはほぼ全滅だと聞いていた。だから、助けてくれた人に会えて、そしてお礼まで言うことができて、涙が止まらなかった。今までの自分の酷い態度を謝った。米村は気にした素振りも見せずに笑顔で答えた。  《何でも屋》は蓬莱組の検挙を達成することができたため、解散することになった。これを機に、《何でも屋》が実は米村が秘密裏に設立した特命捜査班であったことや、設立の理由などが公安の全ての部署に伝達された。構成員だった鶴賀は元々いた捜査第一課に戻り、亀梨も公安外事課に戻った。八村もサイバー犯罪対策課に戻ったそうだ。夜野も公安第二課に戻ったと聞いている。自宅謹慎を命じられている葵だけは、異動の通達がまだされていなかった。だから資料課にまだ葵の荷物がぽつんと残っている。  クビになるかどうかは聞かなかった。いや、聞けなかった。怖かったのだ。確かに警察官になった理由は鬼塚を逮捕するためだ。しかし、その目標も達成された。葵には警察官でい続ける理由がどこにもない。しかし、葵はこの仕事が好きだった。最初は憎む相手を捕まえるためだけに警察官になったが、今ではこの正義の仕事が葵には天職だと思っている。
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