68人が本棚に入れています
本棚に追加
目を開けると、後ろで真昼が「話せた?」と優しく聞いてくれた。葵はこくりと頷いて、「行こうか」と言う。
「また来年来るね」
葵は両親に別れを言うと、両親の墓を後にする。桶を元の場所に戻し、真昼の車へと向かった。一人の男がその車の近くに立っていた。葵は夜野の姿に立ち止まる。真昼は夜野を見つけると、思い出したように「バディの人?」と聞いてきた。
「夜野さん……何で」
「悪い。てっきり一人だと思ったけど、恋人がいるならまた別の機会の方がいいな」
「いいですよ、別に」と真昼が言った。葵は真昼の言葉に甘えて、夜野と一緒に夜野の車に乗った。エアコンが効いた車内は葵には寒いくらいだった。久しぶりに夜野と車に乗った気がする。もう遥か昔のことのようだ。葵が運転席、夜野が助手席の時もあったっけ。
「解散した話は聞いたか?」
「はい。一度、米村警視監に呼び出されて、聞かされました。全部」
「全部っていうのは」
「どうして《何でも屋》が設立されたのか、米村警視監がSATだったこと、とかです」
「聞いたのか」
葵は「はい」とゆっくり頷いた。
「他の奴らがどこに異動になったのかも?」
「はい。全員元いた部署に戻ったんですよね? 夜野さんも」
「ああ、そうだ」
「私だけは、まだで……」
そこで沈黙が起きる。けれどこの沈黙も決して気まずくはなかった。それは数ヶ月間、共に協力して強大な悪と戦ってきたからかもしれない。
「みんなみたいに、私もマル暴に戻るんですかね? それとも──」
クビになるのだろうか。葵は蓬莱組に乗り込んだときも、最初は夜野を置いて一人で乗り込もうとしていた。夜野に自分の私利私欲で迷惑はかけられないと思ったからだ。結局は二人で乗り込むことになったが、葵の単独行動は問題視されるべき点である。クビになる可能性も捨てきれない。
「辞めさせねぇよ。こんな逸材、米村警視監も辞めろなんて言わないだろ」
「ありがとうございます」
「お世辞じゃない。事実だ」
「分かってますよ。夜野さん、お世辞とか絶対に言わないじゃないですか」
最初のコメントを投稿しよう!