エピローグ

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 夜野がチラッと葵を見た。照れたように鼻で笑った。 「それで、夜野さんはどうして今日ここに?」 「お前に言うことがあってな」 「よく場所分かりましたね」 「わかんねぇよ。お前の家に行ってもいなくて、連絡しようかと思ったけどやめて、お前が行きそうなところに目星をつけて、自力で探し出したんだ。まぁ今の時期、ヘヴンタワーか墓参りかの二択だと思ったら、ビンゴだった」 「こわっ」  葵はドン引いた顔で夜野を見た。夜野が「そんな顔するな」と少し怒ったように言う。 「彼氏に、今までのこと言ったみたいだな」 「はい。受け止めてくれました」 「良かったな」 「もう愛しかないです」  葵は手でハートの形を作った。それを見て、「アホらし」と夜野がぼそっと言う。通常運転だな、と葵は思った。一つ一つツッコんだらキリがないので、敢えて聞こえてないフリをした。 「で、言いたいことって?」 「お前の人事だよ」  唐突な台詞に、葵は「え?」と言った。人事、と今夜野は言った気がするが、気のせいだろうか。 「今日はお前に人事異動の通達をしにきた」 「え、何で夜野さんが」 「米村警視監に頼まれたんだよ。メールか電話で済ませようと思ったけど、こういうのは直接の方がいいだろ。米村警視監が随分お前の異動先を悩んでたみたいで、だいぶ時間がかかったそうだ」  葵はごくりと生唾を飲み込んだ。人事異動の通達ということはクビではない、ということ。葵はその事実にホッとした。 「で、私はどこに?」 「どこだと思う?」 「マル暴ですか?」 「違う」  夜野がフッと笑った。葵はその希望に満ちた表情に吸い込まれるように、笑顔を浮かべた。
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