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 葵と八村は犬猿の仲だ。意見が何もかも真逆なのだ。推しも、味付けも、ファッションも、趣味も何もかも。葵は苛々して八村に絡む。 「カペラちゃんの方が可愛いし。てか、カペラって呼び捨てにするな?」 「僕、先輩なんだけど、タメ口やめてくれる?」 「タメ口やめてほしかったら、まずお前が先輩にタメ口やめろ」  二人の間に火花が散る。それを「まぁまぁ」と亀梨が宥めた。 「ったく、お前らこれから任務だってのに緊張感がねぇな!!」  苛ついた表情の鶴賀が二人に言った。亀梨は苦笑いを浮かべた。葵と八村はお互いに背を向ける。鶴賀が溜息を吐いた。 「もう……チームプレーが大事だってのに」  警視庁公安部とは、公共の安全と秩序の維持を目的とする警察組織である。公安は日本を守るために影ながら活動している。彼らの活動が表沙汰になることはない。それは警察組織内でも同様だ。警察組織の中でも独立した公安部の実態は謎に包まれている。  そんな組織に問題児たちが集まる場所がある。公安部資料課──通称・《何でも屋》だ。庁内の清掃や雑用を基本としながら、時にはヘルプに入ることもある。公安部長の米村(よねむら)彰仁(あきひと)が気にかけているためあまり強くは言えないが、誰もが厄介に思っている組織だ。  そして、そこに所属しているのがこの。  今日は公安部第二課のヘルプで荒北(あらきた)慎治郎(しんじろう)首相防衛作戦に同行している。革マル派団体が被災地訪問で福岡行きの新幹線に乗車する首相を暗殺しようとしているという情報が入ったのだ。 「あ!」  鶴賀が頭を抱えている中、葵は大声をあげてガチャガチャに吸い寄せられた。「おい、朝田!」と鶴賀が声を荒げるが、葵は無視した。目の前にある東京駅限定・ステラのキーホルダーしか見えていなかった。八村も吸い寄せられている。
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