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「あった……」  葵はすぐに中身を確認した。早朝ということもあり、満杯だった。キャラクターごとにカプセルの色が分けられているタイプで、どれだけカペラのキーホルダーがあるのかが一目で分かる。葵はポケットからコインケースを取り出し、この日の為に用意してきた100円玉をガチャガチャにつぎ込んでいく。 「おい、お前何してんだよ!!」  鶴賀が葵の肩を掴むが、それに抵抗して葵はガチャガチャを回した。 「邪魔しないでくださいッ」  色を確認して項垂れる。隣で見ていた八村が葵を押して、自分の100円玉をつぎ込んだ。二人は交代しながら推しを引き当てるためにガチャガチャを回していく。  鶴賀は苛々しながら腕時計を確認した。約束の時間はもう迫っている。今朝突然決まったことなので、敦賀たちには時間に余裕がなかった。米村の奇行には毎度面食らう。  そろそろ新幹線が発車してしまう。これを逃せば、二課に頼んでくれた米村の顔に泥を塗ることになる。公安部長であり、この資料課の創設者である米村の顔に。それだけは絶対に避けたい。結局、責任を取らされるのは班長である鶴賀なのだから。 「後で回せばいいだろ! さっさと行くぞ!!」 「待ってください!! ここまで来たら、引くしかないでしょ」  葵と八村は廃人の目をしていた。次から次へと100円玉をつぎ込んでいく。段々と軽くなっていく二人のコインケースを見て、鶴賀は現実から逃れるように目を閉じた。 「亀梨、行くぞ。こいつらはもうオワコンだ。俺らだけで新幹線に乗る」 「はい、班長」  亀梨は苦笑いを浮かべながら小走りする鶴賀の後を追った。葵と八村の姿が段々と小さくなる。
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