普通って何?

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「一つくらい俺が買ってやろうか?」 「駄目! 僕の服は僕が買う! それに……」 「それに?」 「勇介からのプレゼントは特別なときがいい……」  商品を物色ながら呟いた勇也の頬は朱に染まっている。 「覚えておくよ」  特別なときか。誕生日やクリスマスだよな。やっぱり服がいいんだろうか? それより前にバイトとかしなきゃならないのかな? 「余計なことは考えてないよね? 勇介?」 「余計なことって?」 「僕は勇介からプレゼントもらうより、勇介と一緒の時間が嬉しいってちゃんと覚えててね」  完全に釘を刺された。一緒にいてくれるほうがいいと言われるのは悪い気はしないが。俺が他に勇也にしてやれることはないんだろうか。 「これにしようかな? 明日学校に来ていきたいし」  勇也は水色のチュニックを手に取る。勇也によく似合いそうだ。俺らの高校は私服OKの場所だからこそ勇也が本領発揮できる。制服のみの学校だったら学校のアイドルまで乗り上がれなかったろう。まだ一学期だというのに勇也の知名度は抜群だ。 「勇也に似合いそうだ」 「そう? えへへへ」  嬉しそうに笑う勇也。その顔を見ればこっちだって嬉しくなるよ。 「試着するね!」  意気揚々と試着室に向かう勇也。一番に俺に見せる約束を果たしてくれるようだ。  勇也が試着室にいる間、俺は店内を見渡す。男二人で来た店だが、客層を確認すると女性ばかり。女装している勇也を男だと思う人はいないだろうが、途端に不安になる。場違いじゃないだろうか。それとも俺が勇也の彼氏に見えていたりしたら問題ないんだろうか。俺らのことを気に留めている人はいない。深呼吸。今更なんだ。俺は勇也のやりたいことを後押しするんだ。ずっと勇也が笑顔でいられるように。 「勇介、お待たせ!」  試着室のカーテンが開かれる。 「どうかな? 似合ってる?」 「うん。可愛いよ」  よく似合っていた。ただ、顕になった勇也の腿につい目がいってしまう。 「勇介がそう言ってくれるなら大丈夫だ! 一つはこれ!」 「他にも買うのか?」 「もう一着くらい欲しいもん」 「欲張りだなぁ」  勇也はまじまじと俺の顔を見る。この目をされると緊張する。勇也の大きな目が俺の心を見透かしているようで。 「勇介、可愛いは努力しないと手に入らないんだ。妥協はなしだよ」  何を言われるかと思ったが、いかにも勇也らしい言葉だ。 「勇也は努力してるもんな」 「そりゃそうだよ。可愛くいたい理由があるんだから」  理由って何だろう? 聞くのは怖い から聞いたりはしないが。  
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