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翌日、昨日買った服を着てご機嫌な勇也と学校に向かう。相変わらず教室に入ると二手に分かれ、勇也の周りにはすぐに人だかりができる。俺は自らの席について外の景色を眺める。否応なく勇也に語りかける声が耳に入る。
「可愛い! どこで買ったの?」
「えへへ。古着屋で」
「へぇ。こんなのあるんだ。私も行ってみようかな?」
「他にも可愛いの沢山あったよ」
その声を聞いていると俺の心も穏やかになる。勇也が好かれていることと勇也が可愛いといわれていることは俺にとっても嬉しいんだ。
「今日はじめて着るの?」
「ううん。着た姿は昨日、勇介に最初に見せたから!」
俺の鼓動が跳ねる。
「本当に勇也くん、勇介くんが好きだねぇ」
「当たり前じゃん。ずっと一緒にいるんだもの」
再び鼓動が跳ねる。落ち着け。勇也の好きは友達に対しての好きなんだ。
「勇介くんって勇也くんの前ではいつもと違うの?」
小声で勇也に問いかけているが聞こえているぞ。
「ううん。変わんないよ。いつもああだよ」
「怖くないの?」
「なんで?」
勇也の周りの人だかりは次の句を告げずに困っている。
「昨日ね、この服を着てみせたとき、勇介は可愛いって言ってくれたんだ。僕の一番の理解者で優しい奴だよ」
優しいか。優しい奴って勇也みたいな奴のことを言うんだよ。どんなにへこたれても俺が悪い奴じゃないと一生懸命にクラスメイトに語りかける。諦めたっていいのに、毎日そうやって俺を上げようとする。そんなの必要ないのにな。俺に後悔ないんだ。
「勇也くんがいいならいいんだけど……」
「大丈夫! ありがとう!」
そう笑った勇也は俺のほうに歩いてくる。人だかりはそれぞれの席に向かう。
「えへへへ。勇介、可愛いって言われた!」
「そりゃそうだろ。可愛いからな」
「自画自賛だ! とか思わない?」
「思うかよ。勇也はちゃんと可愛い」
「勇介もカッコいいよ!」
また鼓動が跳ねる。勇也の言葉に一喜一憂してしまうが、それも悪くない。
「はいはい。ありがとうな」
「あーー! 適当に流してる! 本当だよ! 本当に勇介はカッコいいんだよ!」
「はいはい」
始業のチャイムが鳴る。
「本当の本当の本当だからね!」
勇也は念を押して自らの席に戻っていく。嬉しいがのぼせる訳にはいかないよ。俺には俺の学校での過ごし方があるからな。
強面でいれば勇也を守りやすいんだ。勇也はきっと気付いていないだろうが、俺は勇也を守れればいいんだ。勇也すら気付いてくれなくていい。誰にも言うつもりはない。
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