休日の楽しみ

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休日の楽しみ

 土曜の朝。丸めた布団を抱きしめながら夢現にいる。 『勇介、どうしたの?』  夢の中で勇也がくりくりとした黒目で俺の顔を覗き込む。 『ねぇ勇介』  勇也の顔のドアップ。ピンクの唇が俺の眼前に迫る。そこで夢は終わる。勇也に急接近された俺は避けようとして動いたのだろう。ベッドから落ちてしまった。 「痛てて……。こんなことばかりだ……」  最近は毎日、勇也の夢を見る。高校に入るなり毎日女装する勇也の可愛さにやられまくっている。毎日勇也を夢で見ているなんて勇也に言ったら勝ち誇った顔をするんだろうな。『僕、可愛いでしょ?』とか言いながら。  夢を見る理由は可愛いだけじゃないのは俺はちゃんと理解している。それを勇也に打ち明ける勇気はやはりない。 「土曜か……」  二度寝して、再び夢の勇也に会いに行ってもいいのだが、土曜は土曜で楽しみがある。  パパッと身支度を整えて俺は外に出る。晴天。風も気持ちいい。いく宛など何もない。ただ単に町をぶらつくだけ。目当ては向こうからやってくる。重要なのは、今日が土曜だということ。  土曜は子供たちも町を駆けていて元気な声を張り上げている。その声を聞くだけで、こちらも元気をもらえる気になるのは不思議だ。  俺もあのくらいの年のときは無邪気に駆けずり回って将来のことなど何にも考えてなかったな。今は将来のことを考えているかと聞かれれば、考えてないと言うしかないが。  俺の環境で劇的に変わったのは、やはり勇也だ。あいつは日毎可愛くなる。そのおかげで俺の気持ちも揺れまくっている。  恋愛とか無縁の無邪気だった頃が懐かしくなる。どこかでちゃんと気持ちは伝えなきゃならないんだ。 「将来か……」  勇也と共に生きるとしたら、俺らはどんな未来を描いているのだろうか。今の俺には想像がつかない。そのための切符もまだ手にしていないんだ。  ぼんやりと町を歩く。立ち止まったり振り返ったり。そうこうしていると目当ての人物は当たり前のように俺に声をかけた。 「何、キョロキョロしてんのさ? 不審者さーん?」  ゴスロリに身を包んだ勇也がずいと俺の顔を覗き込む。 「不審者じゃないし……」 「誰かさんを探していたのかな?」  分かっているくせに。 「さあどうかな」 「ふふ。今週も勇介に会えた」  そう笑う勇也は、やはり眩しくて。身にまとった黒の衣装も輝いて見えてしまう。
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