休日の楽しみ

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「じゃあ行こっか」  勇也はそう言ってスタスタと歩き出す。どこに? などと野暮なことは言わない。俺は勇也に会いたくて町をうろついていたんだ。いつの間にか土曜日は約束せずに落ち合う日になっている。これは勇也が女装を始める前からのルーティンだ。その頃に比べたら勇也はずっと可愛くなった。可愛くなったというのに、なぜか俺に焦りがない。そりゃそうだろう。常に一緒にいるのは俺なんだから。過信だというのは分かっているさ。いつか、誰かのものに勇也はなるだろう。そう思っても俺は勇也のものでいたい。こうやって振り回されていたい。  勇也が向かったのは映画館だった。 「映画かぁ」 「駄目? 僕は勇介と見たいんだけど」  上目遣いで申し訳なさそうに俺の顔を覗き込む。駄目な訳がないだろうが。ただ勇也と暗闇で隣り合って俺の心臓が保つかどうかの問題だ。 「駄目じゃない。何見るんだ?」 「恋愛物……。一人だと恥ずかしくて……」  そんな可愛い見た目していても恋愛物を一人で見るのが恥ずかしいとか、その辺は男の子なんだな。 「いいよ。付き合うよ。どうせ暇だし」 「本当! ありがとう!」  満面の笑みってこういうの言うんだろうな。そんな嬉しそうな顔されたら、お願い聞いて良かったって思うよ。可愛過ぎるんだよな。  チケットと購入し、ドリンクとポップコーンを購入し、中に入る。ポップコーンを食べながら雑談し、証明が落とされるのを待つ。  証明が落とされたら落とされたで勇也は俺の手をキュッと握る。 「僕……本当は映画館はじめてなんだ……ちゃんと側にいて」  俺の心臓がドクンと跳ねる。間違いなく側にいる。約束だ。 「もちろん」  盛り上がってる脳内とは別に口からついてくる言葉は冷静なもの。一喜一憂で勇也みたいにはしゃげたりしたら、勇也に俺の気持ちが伝わりやすいんだろうか。  映画はしずしずと進む。不治の病の少女と少年の話。ストーリーが盛り上がる度に勇也の手がキュッと俺の手を強く握る。  エンドロールが流れているときに勇也の横顔を見ると涙のあとがあった。その間も勇也の手は俺の手を握ったまま。  照明がついて観客が帰り始めても勇也はなかなか立ち上がらない。 「どうだった?」  つい俺は聞いてしまった。 「良かったよ。すごく」  勇也はそう言って繋いで手を離してその手で涙を拭った。 「本当にすごく良かった……」
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