休日の楽しみ

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 正直、俺にはありきたりな話に思えた。どこかで聞いたような話だと思ったが口にはしない。 「良かったな」 「うん。勇介と一緒に見られたし」  目を赤くした勇也がにこりと笑う。 「また勇介と来たいな」 「ああ。またな」  どうしても気の利いた台詞が出ないのが腹立たしい。俺だって勇也と一緒で楽しかったに決まっているんだ。内容云々じゃないんだ。 「勇也、行こう」  俺は立ち上がるが勇也はなかなか席を立たない。なぜかその時、俺は手を差し出したんだ。 「行こう」  勇也は面食らっていたが、笑顔で頷き俺の手を取る。 「えへへへ。お姫様みたいだね」  みたいじゃない。俺にとっては、お姫様なんだよ。 「じゃあ俺はナイトか?」 「王子様かもよ?」 「言ってろ」  つい口に出る強がり。俺は王子様なんてガラじゃない。勇也を守るナイトでいたい。それを直接伝える勇気は俺にはないが。 「ねぇねぇ勇介、このあとお茶しようよ? 冷房効きすぎて僕冷えちゃったから」 「確かに寒かったな。夏日らしいけど冷やしすぎだよな」  勇也の手は俺の手をしっかりと握っている。劇場にいた人々は、やはり勇也が通れば振り返る。見た目は間違いなく美少女なものだから気になるのだろうな。男の子だと知ったらどう思うのだろうな。横にいる俺も気になるだろう。手繋ぎで映画館なんて恋人にしか見えないだろう。  事実が違うのは俺にとって痛い現実。好意を打ち明ける勇気を俺が手にする日は来るのだろうか。  勇也の手は冷えている。本当に寒かったんだろうな。その手を握ったまま、映画館から一番近い喫茶店に入り温かいカフェオレを二つ頼む。  カフェオレが届くまでも勇也は笑顔で映画の感想を楽しそうに話す。俺は黙って聞いていたが、勇也が寒さを我慢しているんじゃなかったかと気が気じゃなかった。  カフェオレが届くと勇也は砂糖を入れてから両手がカップを持つ。 「温かい……」 「寒かったんならブランケットとか頼んでも良かったんじゃないか?」 「やだよ。大事な時間を邪魔されたくないもの」  勇也はゆっくりとカフェオレを体内に流し込む。俺の心臓はバクバクと鳴る。大事な時間とは何のことだろう? 映画のことか俺のことか。結局聞けはしないのだから悩んでも仕方ないが、その言葉を脳内で噛み締めてしまう。 「勇介も飲みなよ。冷めるよ。勇介だって冷えたんでしょ?」 「そうだな」  せっかく勇也に鉢合わせるための土曜日だ。楽しまないと。まだまだ勇也に振り回される土曜日であってくれと願わずにはいられなかった。
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