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カゴを持って勇也のあとをついてまわる俺。ああこういうのも悪くない。新婚夫婦みたいで少しだけ悦に浸れる。
「バナナ味とかもできるんだ……」
相変わらず勇也は真剣な表情。
「勇介、バナナ味でもいい?」
「え?」
「もう! ぼうっとしないでよ。食べるのは勇介なんだから!」
ぷりぷりと怒る勇也も可愛くて、つい笑みが漏れる。
「バナナ味が食べたいな」
「本当!? じゃそれにする!」
勇也の機嫌はすぐに直り、材料をカゴにつめてレジに向かう。
「俺が払うよ」
「駄目だよ。だったらご馳走することにならないじゃん……」
「そんなことはないさ。勇也は作ることに専念しなよ。俺はすごい楽しみなんだ」
「そ……そう?」
嬉しそうな勇也を尻目に俺が会計を済ます。
「勇介ありがとう!」
「どう致しまして」
袋につめてスーパーの外に出る。レジ袋を持つ俺の反対の手を勇也がきゅっと握る。
「頑張るから」
「ああ楽しみにしているよ」
腕を組んだり手を握ったり、小さな頃からそんな関係だったが、変わったのは意識だろう。いつから恋愛対象になったのか。劇的に変わったと言えるのは中学の夏祭りだ。女装をはじめた勇也に心惑わされるなんて見た目で左右されているみたいで自己嫌悪に陥るが、それだけじゃないんだ。
勇也という人間自体にちゃんと魅力を感じている。勇也が学校のアイドルとして君臨しているのも勇也自身の人間性に魅力があるからだ。
周りの目なんか気にしないが、勇也に関してだけは別だ。大切に大事に、そうやって側にいる。
町は夕日に染められているが、日が沈むまでは、まだ時間がある。勇也と手を繋いで歩いていると色々な人が勇也を振り返る。
だろうな。俺が言うのもなんだが、絶世の美少女だからな。神様は酷なことをする。実際は男なんだから。勇也は男であっても女でもあっても自分らしく生きただろうが、女の子だったほうが少しは生きやすかったんじゃないかと余計な心配をしてしまう。
「ねぇ勇介、余計なこと考えてない?」
俺が考えていたことに勘付いたのか勇也が聞いてくる。
「何も」
「本当に? 時々、勇介は余計なことを考えてる気がする。それも僕のことで」
「そんなことはないよ。俺に不満なんてないから」
それは事実。ありのままの勇也が好きで、ありのままに勇也が好きだ。悩む必要などない。
「ふふふ。昔から勇介はそうだよね。嫌いじゃないけど」
どくんと心臓が跳ねる。勇也自身の気持ちはどうなのか。それを確かめる勇気は俺にない。
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