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告白
「勇也くん、今日も可愛いね」
「ありがとう!」
登校時間、今朝も勇也は多くに声を掛けられている。隣にいる俺はいないも同じ。入学したての頃は勇也の隣に俺がいるために声を掛けるのを憚っていた者が大勢いた。一学期も終盤ともなると気にしない者も大勢増えた。俺が怖いのは変わらないだろうが、隣にいる勇也が気兼ねなく俺に声をかけるのが原因だろう。
いてもいなくてもいい空気みたいな存在。それが俺だ。
「えへへ。勇介、今日も可愛いって言われた」
夏も間近になり勇也の服装はミニスカートである日が増えた。細く白い足は俺にとっても眼福であるし半袖から伸びる白い腕もまた眼福だ。やはり可愛い勇也と仲良くしたい人は多いらしく、意を決して勇也に声をかける者も多く。勇也自身は、見た目とか成績とか全く関係なしに誰とでも仲良くする。その中、俺だけが異質だ。俺は学校では勇也としか話さないし、他の誰とも仲良くする気はない。勇也は心配しているが別段困ることもない。もとより俺は友達百人作りたいタイプでもないし、勇也一人いれば、あとは敵でも構わない。友情と恋愛感情ないまぜの今に不安はあるが不満はない。
「勇也は可愛いんだから当然だろ?」
そんな言葉も当たり前に出せる。だというのに自分の気持ちはまだ打ち明けられずにいる。まさか生きていく上で最も勇気が必要なのは、大人を打ちのめすことでもなく、誰かを助けることでもなく、自らの気持ちを打ち明けることだとは思わなかった。
今朝も何事もなく学校に行けるかと思っていた俺らの前に一人の男子生徒が立ちはだかった。
「何?」
俺はついぶっきらぼうに言い放ってしまった。
「勇介、そんな言い方しないの」
目の前の男子生徒の握りしめた拳はぷるぷると震えている。間違いなく俺が怖いのだろうな。
「僕らに何か用?」
勇也がゆっくりと尋ねる。
男子生徒は背も小さく手足も細い。その上伏せ目がちでおどおどした印象を感じてしまう。
「……放課後、勇也くんにお話あります……。勇也くんの教室に行ってもいいでしょうか?」
「構わないけど、お話って?」
「放課後言います。僕、夢人って言いますから……」
そう告げた夢人は、反対を向いて歩き始めるが手と足が一緒に出ている。かなり緊張したのだろうか。
まさかこれはあれか? 告白ってやつか? 俺の心臓がどくんと跳ねる。そうかどうかは分からないが、告白だとしたら……。俺の視界は一気に暗くなる。
「勇介、遅刻しちゃうよ!」
俺の気持ちを知ってか知らずか勇也は俺の手を握り駆け出す。
勇也はどう答えるんだ。俺の長い一日が始まった。
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