5人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休み始まりの日。やはり気温は高く、親世代が学生の頃はここまでじゃなかったというのが疑わしくなる。
俺はデニムにシャツだけのラフな格好で勇也の家に向かう。待ち合わせしてもいいのだが、直接行ったほうが早いだろうと俺らの約束はこんな形になった。
「勇也ーー、起きてるかぁ?」
玄関前で叫ぶと二階の勇也の部屋の窓から勇也が顔を出す。
「勇介、もう来たの!? 早いよ!」
バタバタしながら駆け下りてくる勇也。
「お待たせ!」
ノースリーブにカットシャツの勇也。淡い色で揃えているために白い肌がよく映える。
「日焼け止め塗ってたら時間かかっちゃって」
笑いながら歩き出す勇也。その後ろ姿のうなじがやたら光って見える。
「せっかく綺麗な肌してるもんな」
勇也がピタリと足を止めて俺のほうに向き直り、俺の鼻先に人差し指を当てる。
「そういう誤解される言い方はよくないと思うよ!」
「誤解なんか……」
正直、勇也になら誤解されてもいい。お前はどう思っているんだ? それを確認できる勇気は俺にはない。名前に『勇』の字があるのに、それすらできないんだ。
ショッピングモールにつき浴衣のコーナーに向かう。やはり勇也は人目を引くのか男女問わず振り返っている。可愛いの他に男なのか女なのかも気になるだろう。あちらこちらから可愛いねの声が聞こえる。とうの勇也は全く意に介していないが。
「勇介、金魚だからね! 絶対に金魚!」
手をぶんぶんと振り、浴衣コーナーにずんずんと進む。後ろを歩く俺は多少気恥ずかしくもあるが、可愛い生き物に振り回されるのは悪くはない。
「あった! 金魚! それに白地!」
意外と金魚の浴衣は多く、勇也はすぐに見つける。だが。
「それ女子用じゃないのか?」
「うん。そうだよ。それがいいんだ!」
「いいのか?」
勇也はジッと俺の目を見てから俯く。
「僕……可愛くなりたいんだ……。どうしても……」
何か理由があるのだろう。俺が否定する理由など何もない。
「いいんじゃないか? 勇也なら似合うさ」
「本当!?」
パッと笑顔を見せる勇也。この笑顔には弱い。その表情が俺の心をガッとわし掴むんだ。
「ああ。俺は嘘を言わない」
「へへ。じゃあ試着してみるね!」
嬉しそうに試着室に消える勇也。可愛くなりたいか。好きな奴でもできたんだろうか。面白くはないが、勇也が笑っていられるなら協力しないと。守ってもやらないと。
誰なんだろうな。勇也の好きな奴って。
最初のコメントを投稿しよう!