夏祭り

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夏祭り

 今年も夏休みが近づく。勇也に声をかけた大人たちをぶん殴ってからもうすぐ一年。この一年で見間違えるように勇也は可愛くなった。 扇風機の音がリズムを刻む夜、俺はベッドに寝転びながら自らの手を眺める。 「畜生……」  俺と勇也の間に夢人が入ってから二人の時間は激減した。勇也への気持ちをはっきりさせない俺への罰みたいなものだ。ただ……夏祭りだけは勇也と二人で行きたい。勇也がなんと言うか分からないが、夏祭りは俺にとっては特別なんだ。中一の頃から二人だけで行っていたんだ。その頃にはもう勇也に対する恋心を患っていた。 「勇気を出すか……」  そう思えたのは、はじめてかも知れない。  翌朝、俺と勇也が登校のために歩いていると夢人が交ざってくる。そうすると勇也は俺の腕に絡めた腕を外す。  畜生。 「勇也くん勇介くん、おはよう。別に僕に気を遣わなくていいからね」 「夢人、おはよう」  勇也の顔も心なしか沈んでいる。 「おはよ。ほら行くぞ」  俺は少し強引に勇也の手を握る。 「ふうん」  夢人はつまらなそうに鼻を鳴らしたが、勇也の手はきゅっと俺の手を握り返す。 「二人って本当、不思議な関係だよね」  勇也の横につくかと思った夢人は俺の隣につく。どうやら今日話したいのは俺らしい。 「別におかしかないだろ。俺と勇也は幼馴染みなんだから」 「ふうん。高校生男子の幼馴染みが手繋ぎで登校かぁ」 「悪いかよ?」 「ううん。素敵だと思うよ。じゃあ僕先行くね」  夢人は走り去っていく。 「何なんだ……」 「勇介、気にするなよ。夢人はいつもああじゃん」  夢人が仲間に加わってから調子が狂うことばかりだ。俺は強面扱いで不満はなかったのに、これじゃ普通の高校生みたいだ。俺の高校生生活は勇也だけ存在してくれれば、それで満足なのに。 「そうだな。それより今年の夏祭りは……」 「夢人も一緒かも」 「そうか……」  やはり勇気が出ない。言葉にしなければ何も伝わらないのに。夏休みまでにはちゃんと俺の気持ちを伝えなきゃならない。 「何かあるの?」 「いいや。またにする」  握っている勇也の手がさらにきゅっと俺の手を握り返す。 「気になるなぁ」  もしかしたら俺が何を言いたいか勇也には分かっているのかも知れない。中一からずっと二人で行っていたんだ。勇也の気持ちはどうなのだろう?  それを確かめる言葉を出す勇気が出ない俺はやはりヘタレだ。いつまでも当たり前に勇也が隣にいる保証なんてどこにもないのに。
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