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考え出すと授業にも身が入らなかった。ぼうっと外を眺めていた。教師も俺が大人をぶちのめした話を知っていて、わざわざ注意もしたりしない。高校に入ってから友人も増えていないし、わざわざ声をかけてくるのは勇也以外には夢人だけだ。夢人も夢人で恋敵なのだから、深い関係にもなりたくない。だが今はそれよりも夏休みの夏祭りは勇也と二人で行きたいとどうやって伝えるかだ。本当に馬鹿みたいだ。強面で教師も避けるような俺の胸のうちは勇也のことばかり考えている。俺の最優先が恋愛事情なんて誰も思わないだろうな。大人をぶちのめしたのだって、もともと勇也を守れる男になりたいと裏で鍛えていたおかげだ。あのとき、大人に歯向かう恐怖より勇也を守れる優越感に浸っていた。勝ててしまったからこそ、今こうして悩んでいる。負けたならば、あの夜で勇也との関係は終わっていたのだろうか。
違う今など考えたくもない。
「勇介!」
いきなり勇也の顔が俺の視界を奪う。
「今日はどうしたの? 授業も上の空で……」
どうやら授業は終わったらしい。小休憩の時間に勇也が心配して声をかけたのだろう。
「いや。考え事」
「授業ぐらい、ちゃんと受けなよ? ただでさえ勇介の印象悪いのに……」
心配そうな勇也。とてもじゃないが勇也のことを考えていたなんて言えやしない。気持ちを伝えるべきなのに、そんな言葉が俺の口にあがることはない。
「ああ。気をつけるよ。あんまり勇也に心配させたくないしな」
「うん。留年とか退学とかやめてよ? そうなったら僕が学校に来る意味もなくなっちゃうから……」
意味……。それは友達としてか、それとも別の意味なのか。俺はすうっと息を吸う。自分に都合よく考えるのはやめよう。冷静を保て。
「分かってるよ。勇也と一緒に卒業したいのは俺も同じだから」
「……うん」
勇也は一瞬だけ寂しそうな顔をした。その沈んだ表情さえ俺の胸を締め付ける。どうして、そんなに綺麗なんだよ?
チャイムが鳴る。再び授業が始まる。
「ちゃんとだからね」
勇也はそう言って自らの席に戻っていく。勇也を裏切る訳にはいかないと次の授業は真面目に受ける。成績は悪い訳ではないが、勇也の言うとおり俺の印象は悪いからな。勇也が心配するのも当たり前か。
授業を受けつつ、勇也の後ろ姿を見る。少しだけ気持ちが落ち着く。後ろ姿を見るだけでも癒やしになるんだから勇也はすごいよ。成績も落とさず人気者なんだから。俺と勇也はやはり不釣り合いなんだろうか。
また余計な考えが過るが授業はちゃんと受ける。ざわついたときは勇也を視界に入れればいい。それだけで俺は俺を保てる。
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