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結局、何も言えずに放課後、当たり前のように夢人が俺らの教室にやってくる。
「勇介くん、なんか浮かない顔してるね?」
自らを内気だと言い切る夢人は楽しそうに俺を見た。
「うるせぇよ」
つい、ぶっきらぼうに言い放つが夢人の笑顔は変わらない。
「そうそう。夏休みのさ、夏祭り三人で行かない?」
まるで俺の心を見透かしたかのような提案。どうする? 無碍に断ったら勇也が怒らないか?
「駄目!」
先に言葉を発したのは勇也だった。
「僕と勇介はずっと二人で行ってるんだ……。夢人には悪いけど……諦めて……」
「ふうん」
そう呟く夢人は、やはり楽しそうだった。
「そっか。邪魔しちゃ悪いものね。でもどこかで埋め合わせしてよ」
まるで答えが分かっていたとでもいうような夢人の態度。少しだけ腹が立つが俺は安堵していた。まさか勇也も同じ考えだったとは。
「ああ。どこかで埋め合わせはするよ。カラオケでも行くか?」
「いいね! 勇也くんの歌声聞いてみたい!」
俺の提案に乗ってくる夢人。やはり楽しそうにしている。
「勇介も美声だからね?」
「んーー。そっちは特に」
勇也の俺へのフォローは夢人に届かない。
「お前な……」
呆れた声を出した俺に夢人は舌を出す。
「いやぁ俺の存在、大事だと思うよ? ちょっと見届けたい事象があるから、こうやって来てる訳だし」
見届けたい事象とは一体何だろう。何だっていいか。とにかく今は今年の夏祭りも勇也と二人で行けることに胸を撫でおろす。きっと今年も可愛い浴衣を着てきてくれるのだろう。楽しみだ。
「そうそう勇介くん、勇也くんの浴衣姿はちゃんと写真に撮って俺に見せてね? 独り占めなんてズルいからね?」
こいつは……。やはりちょっと腹が立つが悪い気はしない。だってさ勇也が褒められているってことだろ? それが俺にとって一番嬉しいことだから。
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