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夢人の視線があるというだけで俺のいつもはなりをひそめる。ラブソングでもアニメソングでも普通に楽しんでくれそうだが、ここは俺が勇也を好きだというアピールするべきか? また夢人が勇也に告白しないとも限らないし。
「勇介くん、一曲目からそんな悩む?」
夢人の呆れた視線。
「いつもこうなの?」
夢人は勇也に訊ねてみるが勇也はふるふると頭を振る。
「多分、僕以外の友達がいたの久しぶりだから緊張してるんだね」
友達……。夢人は友達なのか? ただの恋敵じゃないのか? 別の悩みが湧いて出たが、あんまり待たせる訳にもいかないのでアニメソングを入れる。どちらかと言うと親世代が喜びそうな曲を。
「おじさま素敵だよ」
夢人はそう笑う。そうだよな。夏祭りの埋め合わせなんだから今日は夢人に楽しんでもらわなきゃならないんだ。余計なことを考え出すのは俺の悪い癖だ。
そこからはごちゃごちゃ。ラブソングもアニメソングもアイドル曲も懐メロも夏なのにクリスマスソングもみんながみんな歌いたいように歌う。
「あははは! 全く一貫性がない!」
夢人は楽しそうだ。俺の横の勇也も楽しそうだ。俺がスカートの短さを気にしていることにも配慮してくれて、立ち上がるときは押さえてる。それでも心配だけど勇也は勇也で夢人を楽しませるためにしたことだ。誘惑するとかそういう類のものじゃない。俺だって俺のためにこの格好したって言われたら嬉しいだろうに。
まだ勇也は俺のものじゃないんだ。それなのに……。
勇也に俺の頬を両手で挟まれた。
「また余計なこと考えてるでしょ? 悩みすぎはハゲるよ?」
「ああ。確かに勇介くん、将来ハゲそう!」
夢人がケラケラ笑う。
「誰がハゲるか!」
「はいはい。ハゲないために今は悩むのやめようね!」
勇也の右手の人差し指が俺の鼻の頭をちょんと押さえる。
「お……おう……」
ああ! もう! 今日も勇也は最高に可愛いよ! なんて口に出せずに俺らはカラオケを楽しんだ。
そっか夢人はもう友達なんだ。
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