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夏休み
半日の学校。それが終われば夏休み。教室の席から俺はのんびりと外の青空を眺める。すでに終業式も終わり、あとは帰るだけだが一緒に帰る予定の勇也の周りには人だかり。
「夏休みの間、勇也くんに会えないの寂しいよーー」
「一学期の記念に写真撮らせて!」
「勇也くん、夏休みは何するの?」
流石、学園のアイドル。多分ここの高校で今一番有名なのは勇也だろう。見た目美少女で性格もいいし明るいからな。俺も勇也から誰かの悪口を聞くことはほとんどない。人当たりもいいから、なかなか今の状況から抜けられないでいる。
「じゃあみんなで記念写真撮ろっか?」
写真を撮りたいというクラスメイトが多いために勇也は、あえてみんなという言葉を使う。それだと一回で終わるからな。
勇也の発言に従って、みんなが黒板の前に集まる。
俺は変わらず空を眺めていると手に温もりを感じた。前を見ると勇也が俺の手を握っている。
「ほら。勇介もだよ!」
「いや。俺は……」
「もう! 勇介もみんなの中に入ってるんだよ!」
俺なんかが入って、みんながイヤな顔をしりゃしないだろうかと不安になる。だが勇也はぐいぐいと俺を引っ張り、俺は勇也と並んでみんなの真ん中に立つ。
誰も文句は言わずに、あっさりとみんなの写真は撮影された。
みんなは勇也に別れを挨拶を告げて一人また一人と帰っていく。もう少しで勇也と二人きりになれるかと思っていたら、夢人がやってきた。
「おや? 邪魔した?」
俺の顔色を見て夢人はそう笑ってくる。
「何も」
「ふふ。相変わらず勇介くんは素直じゃないね」
「なんの話だよ?」
「さあね」
夢人とそんなやり取りをしていると最後の一人に手を振っていた勇也が加わってくる。
「夢人、勇介が気になりだしたの?」
「いや。それはない」
聞く勇也も勇也だが即答する夢人も夢人だ。一応、俺にとっては夢人は恋敵なんだぞ?
「せっかく始まった夏休みだけど真っ直ぐ帰るのつまんないから喫茶店行かない?」
聞いてか聞かずか勇也は、会話の繋がりのない提案をしてくる。
「いいんじゃないか? 今日は暑いからアイスコーヒーもいいしな」
「勇介くん、アイスコーヒーとか格好つけてる?」
「うるせぇな。俺はもともとコーヒー好きだよ」
「夢人、勇介の言ってることは本当だから。勇介からはいつもコーヒーの匂いがするよ」
ドキリとする。自分の香りとかを好きなやつに指摘されるのは。そうか。俺はコーヒーの匂いなのか。それに気付けるだけ勇也が側にいるってことか。
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