5人が本棚に入れています
本棚に追加
俺らはそのまま喫茶店へと向かっていく。ここ数年の夏場は茹だるように暑い。温暖化のせいなのだろうけど、つい空に文句も言いたくなる。
「で、勇也くんはもう浴衣買ったの?」
夢人は勇也の浴衣が気になるらしい。俺に撮れというくらいだからな。
「まだだよ。可愛いのがいっぱいあって迷ってて……」
「勇也くんなら何だって可愛いよ」
内向的だと自分から言ったわりに夢人は頻繁に勇也に声をかける。一度フラレて吹っ切れるとこうなるのか。
「でも僕は勇也くんの浴衣姿見れないからなぁ」
夢人はニカリと笑い、俺に視線を寄越す。
「何だよ?」
「いや。勇介くんが羨ましいなぁって」
「別にいいだろ」
悪気はないのだろうが夢人の言い方は何かしらの含みがある。ついついぶっきらぼうに返す。
「もう! 勇介、そんな言い方しないの! 僕の浴衣姿楽しみじゃないの?」
「……楽しみだよ……」
「ほうほう」
夢人はやはり楽しそうに笑う。
「二人にとっていい夏休みになるといいね」
夢人の笑顔は嘘じゃないだろう。だが何を言いたいのか俺にはさっぱり分からない。
なんてやり取りをしていたら喫茶店へとついた。
扉を開けて窓側のテーブルについて、それぞれ注文をする。
俺がアイスコーヒー。勇也はクリームソーダ。夢人はアイスカフェオレ。
「そういや勇介くんは確かにコーヒーの香りだけど、勇也くんは何かつけてるの? いい香りだよね?」
「おいおい……」
不躾な夢人につい呆れてしまう。
「何にもつけてないよ。洗剤と柔軟剤とかシャンプーの匂いだと思うよ」
勇也は勇也で特に気にせずに返答してる。夢人くらいズバズバと聞けたら楽しいだろうな。俺には無理そうだけど。
「そうかぁやっぱりモテる子は違うなぁ。髪だってサラサラだし」
「えへへへ。ありがとう」
勇也は嬉しそうだが、やはり俺は気が気じゃない。また告白始めたりするんじゃないかと。
「うんうん。そういうとこは勇介くん、褒めてあげないの?」
「へ?」
まさかこっちに振られるとは思わずに素っ頓狂な声をあげる。
「だっていつも勇也くんのこと可愛い可愛いって言ってるじゃんね。細かなとこは言ってあげないのかなぁって?」
「夢人、勇介は今のまんまでいいんだよ」
勇也が困った顔をしている。
「俺だってちゃんと気にしてる。それを含めて可愛いって言ってるんだ……」
「勇介……」
驚く勇也に嬉しそうな夢人。一旦、間があってドリンクが運ばれてくる。
「僕も夏休み楽しみだな」
夢人は今日はかなりご機嫌らしい。やっぱり腹の中は見えないが、俺らの中を裂こうとしている訳ではないのだから、何とも言えない。夢人は一体何が見たいんだろうな。
最初のコメントを投稿しよう!