夏休み

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 俺らはそのまま喫茶店へと向かっていく。ここ数年の夏場は茹だるように暑い。温暖化のせいなのだろうけど、つい空に文句も言いたくなる。 「で、勇也くんはもう浴衣買ったの?」  夢人は勇也の浴衣が気になるらしい。俺に撮れというくらいだからな。 「まだだよ。可愛いのがいっぱいあって迷ってて……」 「勇也くんなら何だって可愛いよ」  内向的だと自分から言ったわりに夢人は頻繁に勇也に声をかける。一度フラレて吹っ切れるとこうなるのか。 「でも僕は勇也くんの浴衣姿見れないからなぁ」  夢人はニカリと笑い、俺に視線を寄越す。 「何だよ?」 「いや。勇介くんが羨ましいなぁって」 「別にいいだろ」  悪気はないのだろうが夢人の言い方は何かしらの含みがある。ついついぶっきらぼうに返す。 「もう! 勇介、そんな言い方しないの! 僕の浴衣姿楽しみじゃないの?」 「……楽しみだよ……」 「ほうほう」  夢人はやはり楽しそうに笑う。 「二人にとっていい夏休みになるといいね」 夢人の笑顔は嘘じゃないだろう。だが何を言いたいのか俺にはさっぱり分からない。  なんてやり取りをしていたら喫茶店へとついた。  扉を開けて窓側のテーブルについて、それぞれ注文をする。  俺がアイスコーヒー。勇也はクリームソーダ。夢人はアイスカフェオレ。 「そういや勇介くんは確かにコーヒーの香りだけど、勇也くんは何かつけてるの? いい香りだよね?」 「おいおい……」  不躾な夢人につい呆れてしまう。 「何にもつけてないよ。洗剤と柔軟剤とかシャンプーの匂いだと思うよ」  勇也は勇也で特に気にせずに返答してる。夢人くらいズバズバと聞けたら楽しいだろうな。俺には無理そうだけど。 「そうかぁやっぱりモテる子は違うなぁ。髪だってサラサラだし」 「えへへへ。ありがとう」  勇也は嬉しそうだが、やはり俺は気が気じゃない。また告白始めたりするんじゃないかと。 「うんうん。そういうとこは勇介くん、褒めてあげないの?」 「へ?」  まさかこっちに振られるとは思わずに素っ頓狂な声をあげる。 「だっていつも勇也くんのこと可愛い可愛いって言ってるじゃんね。細かなとこは言ってあげないのかなぁって?」 「夢人、勇介は今のまんまでいいんだよ」  勇也が困った顔をしている。 「俺だってちゃんと気にしてる。それを含めて可愛いって言ってるんだ……」 「勇介……」  驚く勇也に嬉しそうな夢人。一旦、間があってドリンクが運ばれてくる。 「僕も夏休み楽しみだな」  夢人は今日はかなりご機嫌らしい。やっぱり腹の中は見えないが、俺らの中を裂こうとしている訳ではないのだから、何とも言えない。夢人は一体何が見たいんだろうな。
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