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「えへへへ」
満足そうに浴衣の入った紙袋を抱える勇也。その姿に俺も微笑ましくなる。
「勇也、疲れてないか? 喫茶店でも寄ってかないか?」
「うん! そうする!」
相変わらず元気な返事だ。
俺らはショッピングモールの喫茶店に向かい、腰を落ち着ける。アイスコーヒーを二つ頼んでから気になることを聞いてみる。
「なあ勇也、好きな奴でもできたのか?」
勇也の目が丸くなる。その透き通るような目は俺をまじまじと見つめてくる。
「さあね。勇介には教えないよ。今じゃないだろうし……」
今じゃないって何だろう。気にはなるが根掘り葉掘り聞き出すのは勇也の機嫌を損ねる。
「そうか。その時が来たら教えてくれよ。応援するから」
勇也はまたきょとんと目を丸くする。
「応援するかぁ。じゃ、僕も勇介の恋を応援するね」
応援って……。俺が好きなのはお前なのにどうやって応援するんだよ。
アイスコーヒーが届く。黙って二人ともストローを差す。勇也はミルクとガムシロも入れてかき混ぜる。
「僕はさ、誰かと恋をするのは素敵だと思うけど気心の知れた友達と喫茶店でお喋りするような、一杯のアイスコーヒーで粘るような関係も悪くはないと思うよ」
勇也はまた俺の顔をジッと見る。
「勇介は?」
「俺もだよ」
勇也はうんうんと頷きストローに口をつける。その唇もケアをしているんだろうな。柔らかそうなピンクの唇。つい視線が向かう。
そうだよな。勇也が誰を好きであろうが、俺らの関係が変わる気はしない。先のことを心配するのは取らぬ狸の皮算用だ。今を楽しむしかない。
「そう言えば勇介、進学先決めた?」
「うちの町の高校に行くよ。遠いところは面倒臭い」
「じゃ、僕もそうするね!」
「おいおい。進学先くらいちゃんと考えなよ……」
「いいの! 僕は勇介の側がいい!」
そういうのが俺を困らせるんだよ。勇也、お前の好きな奴は誰なんだ? 男なのか女なのか、それすらも分からない。勇也自身はモテているのに恋愛に突入しそうな噂すら聞こえない。
俺の側にいたいって、それは友情か愛情か。情けないが勇也の気持ちを聞かない限り俺も前に進める気はしない。勇也の視線を独占する羨ましい奴はどいつなんだよ。
「ねぇ勇介、ここ出たらアクセサリー見に行ってもいい? せっかくだから髪飾りも見たいんだ」
「構わないよ。俺は付き合うから」
「本当? ありがとう!」
本当に誰なんだよ。それとも、そんな奴はいないのか? 俺だけ勝手にモヤモヤしているだけなんだろうか?
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