そわそわの夏休み

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そわそわの夏休み

 午前に課題を終わらせ、午後は当てもなく街をぶらつく。当てがないというのは嘘か。あいつは俺の習性を知った上で毎日会いに来るんだ。  学校があったときは、土曜日がその日だった。長期休暇に入るとそれは毎日に変わる。  勇也は毎日俺の課題の進捗をチェックするものだから、やらない訳にはいかない。怒られるのが怖い訳じゃないが、わざわざ好きなやつを怒らせようとは思わない。  フラフラとふらつく街。暑さが茹だるようだが、街を歩く若い奴らは楽しそうに笑っている。カップルもかなり多い。  勇也と俺も並べばカップルに見えるんだろうか。本物のカップルになれる気は全くしないが。 「勇介ーー」  いきなり背中から抱きつかれた。 「勇也、何やってんの?」 「勇介におぶさってる」 「はいはい。暑いから離れような」  なんて言いながら内心嬉しいのは、勇也には内緒だ。最近気付いたが俺はやっぱり余裕を見せていたいんだよ。 「えーー。ドキドキしなかった?」 「さあな」  言えるか。恥ずかしい。勇也は今日は黄色のワンピース。童顔の勇也によく似合っている。 「どこ行こっか?」  当てもなくフラついていた俺に勇也は当たり前のように笑う。約束などしていないし、勇也に会えたらいいくらいでいたのだから本当に行く宛などない。 「コンビニのイートインで駄弁るか」 「そういうのもいいね!」  勇也の笑顔は今日も眩しい。流石に約束せずに街で会っているのだから、夢人の邪魔が入ることもないだろう。 「はい決定」 「行こう!」  勇也の腕が俺の腕に絡みついてくる。毎日のことだが、緊張してしまう。そして嬉しい。  勇也の足元は赤いサンダルだ。 「それ、歩きづらくないか?」 「気付いてくれた? 歩きづらいけどファッションは我慢なんだよ。可愛くいるためには必要なの!」 「そうなのか。まぁ疲れたら言ってくれ。おぶってやるから」 「えへへへ。勇介は優しいなぁ。でもまぁ訓練だから」  優しいとは言ってくれるか、その優しい男は勇也に対する下心が満ちているんだけどな。大切な友人なのには変わりないが。 「浴衣……決めたか?」  まるで夢人みたいだと思いつつもやはり気になる。勇也の気合も充分だし、聞いてみたほうがいいだろう。 「決めたよ。夏祭りには勇介に可愛い姿を見せてあげるよ」 「そうか」 「ふふふ。勇介、ニヤついてるよ。そんな楽しみ?」  気をつけていたが、指摘されてつい頬を触る。 「嘘だよ。でもちゃんと楽しみにしててよ。僕、頑張るから」  本当に勇也は良い奴だ。多分、俺なんかより勇也に釣り合う奴は沢山いるんだ。俺は今に感謝しなければならない。
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