5人が本棚に入れています
本棚に追加
そわそわの夏休み
午前に課題を終わらせ、午後は当てもなく街をぶらつく。当てがないというのは嘘か。あいつは俺の習性を知った上で毎日会いに来るんだ。
学校があったときは、土曜日がその日だった。長期休暇に入るとそれは毎日に変わる。
勇也は毎日俺の課題の進捗をチェックするものだから、やらない訳にはいかない。怒られるのが怖い訳じゃないが、わざわざ好きなやつを怒らせようとは思わない。
フラフラとふらつく街。暑さが茹だるようだが、街を歩く若い奴らは楽しそうに笑っている。カップルもかなり多い。
勇也と俺も並べばカップルに見えるんだろうか。本物のカップルになれる気は全くしないが。
「勇介ーー」
いきなり背中から抱きつかれた。
「勇也、何やってんの?」
「勇介におぶさってる」
「はいはい。暑いから離れような」
なんて言いながら内心嬉しいのは、勇也には内緒だ。最近気付いたが俺はやっぱり余裕を見せていたいんだよ。
「えーー。ドキドキしなかった?」
「さあな」
言えるか。恥ずかしい。勇也は今日は黄色のワンピース。童顔の勇也によく似合っている。
「どこ行こっか?」
当てもなくフラついていた俺に勇也は当たり前のように笑う。約束などしていないし、勇也に会えたらいいくらいでいたのだから本当に行く宛などない。
「コンビニのイートインで駄弁るか」
「そういうのもいいね!」
勇也の笑顔は今日も眩しい。流石に約束せずに街で会っているのだから、夢人の邪魔が入ることもないだろう。
「はい決定」
「行こう!」
勇也の腕が俺の腕に絡みついてくる。毎日のことだが、緊張してしまう。そして嬉しい。
勇也の足元は赤いサンダルだ。
「それ、歩きづらくないか?」
「気付いてくれた? 歩きづらいけどファッションは我慢なんだよ。可愛くいるためには必要なの!」
「そうなのか。まぁ疲れたら言ってくれ。おぶってやるから」
「えへへへ。勇介は優しいなぁ。でもまぁ訓練だから」
優しいとは言ってくれるか、その優しい男は勇也に対する下心が満ちているんだけどな。大切な友人なのには変わりないが。
「浴衣……決めたか?」
まるで夢人みたいだと思いつつもやはり気になる。勇也の気合も充分だし、聞いてみたほうがいいだろう。
「決めたよ。夏祭りには勇介に可愛い姿を見せてあげるよ」
「そうか」
「ふふふ。勇介、ニヤついてるよ。そんな楽しみ?」
気をつけていたが、指摘されてつい頬を触る。
「嘘だよ。でもちゃんと楽しみにしててよ。僕、頑張るから」
本当に勇也は良い奴だ。多分、俺なんかより勇也に釣り合う奴は沢山いるんだ。俺は今に感謝しなければならない。
最初のコメントを投稿しよう!