目覚める

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 勇也はピンクの花の髪飾りを購入して、やはり笑顔でいる。あとは帰るだけだ。  ショッピングモールをあとにするとすでに夕暮れ。夏休みなだけあって学生らしき若者が多い。もちろんカップルらしき人も多い。 「勇介、ありがとうね。夏祭りは絶対に可愛い姿見せるから!」 「ああ。ただ、好きな奴にも見せてやれよ。いるんならだけどさ」  勇也は、また目を丸くするがすぐにふわりと笑う。 「そうだね! そうするよ!」  夕映えに照らされた勇也の顔は今日一の可愛らしさを見せる。やっぱり好きな奴がいるんだろうか。誰だよ。その羨ましい奴は。 「でもさ、僕は勇介に一番に見てもらいたいんだ。これからもずっと僕の可愛い姿を一番に見てほしいんだ」 「ああ。約束するよ」  勇也はうんと頷いてから顔を曇らせる。 「可愛い格好して可愛いって言われるの今だけだから。これから成長して男らしくなったら可愛くなくなっちゃうから……。それまでちゃんと可愛い僕を見て」 「馬鹿言うな」  俺が勇也の頭をくしゃりと撫でる。 「勇也が可愛くなりたいと言うならずっとやれよ。いつまでも俺が一番に見てやるから。勇也がずっと可愛いのは俺が保証するよ。どんな勇也になろうと勇也が勇也を否定しようと俺は勇也を否定しない。だから、そんな顔すんなよ。なんかあったら守ってもやるからさ」 「あはは。ありがとう。勇介。やっぱり僕、勇介と幼馴染みで良かったよ。これからもちゃんと見てね」 「ああ」  男で可愛いを追究するのは、かなりの努力が必要だろう。俺たちは成長期の真っ只中。どのように成長していくかなんて分りゃしない。ただ、それを理由に好きを否定しないでくれ。  きっとさ、どんな勇也になってもふわりと笑う勇也が俺は好きだ。俺は俺を否定しない。この先の未来、俺は必ず勇也を好きでいる。覚悟みたいなものだが、勇也のいない未来が想像できないのも事実だ。  恋人でもないが、大切な人に抱く感情は硬いものじゃなくて、相手を受け入れられるように粘土みたいな形を変えるものだ。どんな勇也でも俺は受け入れる。  キュッと拳を握る。勇也の手を握りしめたくなるのを我慢する。勇也の荷物を持ちたいのを我慢する。勇也が誰かを想っているのならば、俺が恋人らしいことをできるはずもない。 「勇也、前を、気を付けろよ」 「大丈夫だよ。そんな重くないし、危なくなったら勇介が助けてくれるでしょ?」 「できる限りな」  どうかいつまでも。今までも何度もそう願った。最初の夏祭りは週末。その時の勇也の姿を期待しながら、いつまでも一緒にいたいと今日も願った。
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