目覚める

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 俺らの住む町は夏休みのうちに大小様々な夏祭りがいくつも行われる。他県に住むおじさんの話だと、ここまで夏祭りが多いのも珍しいそうだ。また、花火大会も大小様々行われ、この町の夏はいつも賑やかだ。  二学期が始まれば否応なしに受験対策に時間を割かなければならない。志望校を受ける学力は問題ないと太鼓判を押されているが何もしなくていい理由にはならない。だからこそ今年の夏は勇也との時間を大切にしなければ。  中学三年。これからの人生の選択を自分で決めなければならない。それは進路も恋も。高校で勇也と離れ離れになる可能性もある。勇也も学力は問題ないだろうが、それは蓋を開けてみなければ分からないんだ。 「勇介、お待たせ!」  夏祭りの日の夕方。俺は勇也を迎えに勇也の家を訪れた。女性物の白い金魚をあしらえた浴衣に髪をアップしてピンクの花の髪飾りを差した勇也はどこからどう見ても美少女だ。 「どう? 可愛い?」  勇也は俺の前でくるりと回ってみせる。 「ああ可愛いよ。すごく」 「良かったぁ!」  にへらと笑う勇也は俺の手を取る。 「じゃあ行こう!」 「ちょっと……手……」 「いや?」 「いやじゃないけど……」 「じゃあいいじゃん!」  そのまま俺の手を引いてずんずんと歩く。  勇也の足元を見るとちゃんと下駄だ。素足の白さにも俺の胸は高鳴る。  まさか、ここまで可愛くなるとは。クラスメイトに出くわしたらからかわれそうだ。それはそれでいいが。  今日の夏祭りの規模は小さいが、それでも賑わっていた。 「射的やる!」  勇也は会場につくなり、射的屋を探す。俺は何か食べたかったが主導権は勇也に握らせる。勇也が楽しんでくれるのが一番だから。 「お兄さん、一回!」  射的屋を見つけるなり小銭を渡して、勇也は的を狙う。だが全てハズレ。 「ちぇーー」  不満はないらしい。 「次、氷食べよ!」 「あんまりはしゃぐなよ。せっかくの可愛い浴衣汚れるぞ?」 「お祭りは楽しまなきゃ損!」  にへへと笑ってみせて勇也はかけていく。無邪気なのは昔から変わらない。その無邪気さがまた俺の胸をかき鳴らすんだ。  かき氷と焼きそばを買って、俺らは備えられたベンチに腰をかける。 「欲張りすぎじゃないか? 焼きそば食べちゃってから氷買っても良かったじゃん?」 「勇介、あまいよ! 商品には限りがあるんだ! 欲しいものは早く買うに限る!」  つい笑ってしまう。二人で焼きそばを頬張ってからかき氷を味わう。案の定、かき氷は少し溶けて水分が多くなっている。 「俺ちょっとトイレ。勇也は?」 「僕はここで待ってるよ。何気に下駄って履きなれてないから歩きづらいんだ」 「そうか。すぐ帰ってくるよ」
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