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普通って何?
俺と勇也が朝に教室に入ると俺らはそれぞれの席に行くために離れる。分かりやすいように勇也の席には人が集まり、逆に俺の席からは人が離れる。高校入学以来、ずっとそんな調子なものだから、勇也は俺を心配してこんなことを言った日がある。
「どうしてみんな、勇介の良さが分からないんだよ!」
クラスメイトにシカトされていたとしても勇也のその言葉が俺にはたまらなく嬉しかった。
「俺にも良さがあるなら、それは勇也だけ分かっていればいい。世界を敵にまわしても勇也がいれば俺は平気だよ」
「勇介……」
それは愛の告白みたいなものだが、追及してくることはなかった。俺も最近はもしかしたらと思っているし。勇也が可愛くなりたいと女装やメイクをしているのは俺のためかも知れない。確認するには、やはり勇気が出なくて中学のときと変化のない関係性を維持している。
「ねぇねぇ。勇也くん、コスメ何使ってるの? いい色だよね」
「特に決めてはないよ。とりあえず色々使って合うの探してるんだ」
普通に女子と会話をする勇也。その内容は俺にはさっぱりだが。
「ねぇ勇也くん、勇介くんとの関係は変わんない?」
「変わんないけど……なんで?」
「だって勇介くんは怖いけどイケメンじゃん。そりゃ気になるでしょ?」
「だったら勇介本人に聞けばいいじゃん……」
勇也は俺に丸聞こえなのを気にしない。わざわざ女子が声のトーンを落としたのに全く意味がない。
「だって勇介くんは乱暴だって聞くから……」
「そんなことない! 勇介はいい奴だ!」
入学してから勇也は一生懸命に俺を庇うが一度ついたレッテルは簡単には剥がせはしない。大人数人を一人で打ちのめしたのは事実であるし、それで勇也が守れたならば俺に後悔はない。
ホームルームのチャイムが鳴る。勇也のまわりの女子たちは自らの席に戻っていく。勇也は、俺がいる方向に視線を向けて悲しそうな顔を見せて前を向いた。
ごめんな勇也、辛い思いさせて。勇也としたら、俺もクラスメイトと仲良くして欲しいのだろうが、それは余計なことなんだ。俺はお前が笑ってくれればそれでいい。側にいてくれればそれでいい。悟っちまったんだ。大事な奴が幸せならば、それで満足できるって。恋とか愛とか、きっとそれでかたがついちまうんだよ。
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