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「なんで勇介は平気なのさぁ」
放課後、クラスメイトが帰った教室で勇也は俺の背中におぶさる。
「なんでかなぁ」
「そうやってすぐはぐらかすしーー」
そりゃそうだろ。俺が俺より大切なのは勇也なんだ。勇也に害が及ぶなら全力で阻止するが、俺に向かってくる害なんか大したことはない。我慢するとかの次元でもない。ただ流れる時間を見ているだけなんだ。
「勇也が心配するほど俺は弱くないよ」
「そんなの知ってるよ。はぁ勇介の背中落ち着くーー」
こんなことをやっているから俺らの関係性をみんなは気にするのだろうな。これはこれで俺にとっては嬉しいのだが、勇也狙いの奴らからしたら面白くないだろう。学園のアイドルが強面の俺に一番懐いているんだから。
「ほら帰るぞ」
「えーー、もっといちゃつきたーーい」
「おいおい……」
「あ! 今、ドキッとした? ドキドキした?」
俺は椅子から立ち上がる。勇也もそれにあわせて背中から離れる。
「帰るぞ」
「ちぇーー」
ドキドキしていない訳ないだろ。俺が好きなのはお前なんだ。それなのに、お前は冗談なのか本気なのか分からない接し方をする。勇也のためなら人をぶん殴るのは平気だが、勇也の本心はやはり聞き出せない。
歩き始める俺の腕に勇也はまとわりつく。
「ちゃんと僕に合わせてね」
言われずとも勇也の歩幅に合わせる。置いてなんか行けるか。また襲われないとも限らないんだから。
「相変わらず仲良しだな……」
廊下を歩いているとそんな声が聞こえる。
「あいつがいなきゃ勇也くんにアタックするのになぁ」
そう言ってる時点で駄目だろ。アタックしたいんなら俺がいようがいまいがアタックしろよ。尻込みしているだけだろう。
ちらりと勇也の横顔を見る。相変わらず白い肌だ。口元は笑みを浮かべている。勇也は俺と一緒のときは、その顔をしている。勇也の恋愛対象が女性なのか男性なのかも分からない。ずっと一緒にいるのに、勇也の口から恋愛話が出たことはない。俺から聞くこと自体が気が引けてしまうし。
多分怖いんだろうな。勇也の恋愛対象が俺以外だった場合が。下手に勇気を出して聞き出すより今の関係でいいんじゃないかと後ろ向きになってしまう。近過ぎるから分からない。悩む。怖じ気づく。
そうなんだよな。恋は人を強くするが弱くもする。その繰り返しなんだろう。いや。ただ単に俺が弱いだけなんだ。情けねぇ。
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