束の間の安らぎ

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束の間の安らぎ

「しかし、理玖くんがヒート来た途端、篤哉が噛んじゃうなんて想像できなかったよな。さすがにそこまで堪え性がないって思わなかったし。中三じゃギリギリだよなぁ。」 そう言って呆れたように壱太は篤哉を見た。篤哉はカフェの椅子から立ち上がると、俺に深々と頭を下げて言った。 「申し訳ありませんでした!お義兄様!不束者ですが、これからも末永くよろしくお願いします!」 俺は思わず眉間に皺を寄せてぼやいた。 「うわっ、テンション高くてキモい…。」 蓮が笑いを堪えながら、俺の肩に手を回して言った。 「こんな事言ってるけど、案外涼介はホッとしてるんだぜ?理玖くんは可愛い過ぎてブラコンじゃなくても心配の的だからな。」 俺は横目で蓮を睨みながら、篤哉に文句を言った。 「ホッとしてるってのとはちょっと違うけどな。まぁ、理玖の事はもう篤哉にお任せだな。俺は自分の事で手一杯だから。」 そう言うと、蓮が嬉しそうに俺のこめかみにキスした。こいつも大概だ。俺たちを呆れたように篤哉も、壱太も見てやがる。壱太はげんなりした顔で肩をすくめると、独りごちた。 「やっぱり、俺だけ春が来てないみたいね…。なんか羨ましいなぁ。」 篤哉が呆れたように壱太を見て言った。 「いやいや、お前はいつも満開じゃないか。ていうか花が多すぎて修羅場にならないのが、本当に不思議なんだけど。」 すると壱太がニヤニヤしながら言った。 「俺には絶対的なガードマンがいるんだ。幼馴染が困った時はダミー彼女として大活躍なんだよね。」 俺は壱太の顔を見ながら探るように尋ねた。 「笹川さんのこと?笹川財閥のお嬢様か。お前知らないのか?彼女色んな相手とマッチングしまくってるって話。そのうちその奥の手使えなくなるぞ。」 急に壱太が険しい顔をして俺に食いついてきた。 「それってどこ情報?」 俺は蓮の手を退けると、アイスクリーム乗せアップルパイを食べながら答えた。 「うちの兄貴。笹川さん人気らしいよ。アルファなのに、ツンツンしてないしな。」 壱太は急にガタガタと椅子を鳴らして立ち上がると、用事を思い出したと言って慌ててカフェを出ていってしまった。 俺たちは顔を見合わせてニヤッと笑い合うと、壱太の健闘を祈った。俺はこんな風に馬鹿を言い合って笑える時間がずっと続くと思ってたんだ。 それが人生では一瞬、一瞬の大事な切り取られた時間だってことを、俺はまざまざと思い知らされるなんてその時は考えもしなかったよ。
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