提案

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俺は少し落ち着かない気分で蓮を待っていた。今夜こそ例の話をするつもりだった。改めてしようと思うと、なかなか言い出せない。俺も随分と小心者だとため息をついた。 玄関の鍵の音がして、俺は思わず立ち上がって蓮を迎えに行った。蓮は少し驚いた顔で俺を見つめると、片眉を上げて尋ねた。 「…玄関に迎えに来るなんて珍しいな。嬉しいよ、涼介。」 そう言って俺を抱きしめると、少しひんやりした鼻筋を俺の首に押し付けた。俺は首が弱いってのに、敢えてそれをするのは蓮らしいっていうか。 蓮は一見おっとりして動じない風だけど、本来は俺よりもよっぽど攻撃的というか、グイグイ来るんだと付き合い始めてから知った。一度今までと性格が違い過ぎると文句を言ったら、俺に覆い被さって来て言ったんだ。 「だって、勝ち気な涼介の側に居るなら敵対しない方が良かったろ?でも本当の涼介は苛められたい性癖だって分かったら、遠慮しなくて良いんだって分かったからな?俺たち、そっちでもピッタリだろう?」 それから馬鹿みたいに貪られたから、うっかり変なことは言えないんだ。俺はそんな事を思い出してクスッと笑って、蓮の耳をつるりと触れてから先にリビングへ戻った。蓮の弱点は耳だから仕返しだ。 洗面所から戻ってきた蓮は、俺をグイッと捕まえるとソファへと沈み込んだ。 「何か言いたいことがあるんだろう?言うまで離さないからな。」 そう言ってニヤニヤしてるんだ。俺はもう誤魔化しが効かないなと思って、咳払いすると蓮の腕の中から逃れて向かい合って座りなおして話すことにした。 「あー、前から考えてたんだけど、俺さ、家を出ようと思って。理玖ももう直ぐ退院する目処がついたし、まぁ相変わらず篤哉の記憶は戻らないけどな。あの二人の事はこっちが心配する必要はもう無いから。 兄貴曰くは理玖は篤哉と一緒に住むことになったらしい。相当苦々しく言ってたけど、父さんが母さんとの事引き合いに出されてダメだって言えなかったらしいよ。 俺には番のあれこれは想像だけだけど、まぁ記憶が戻らなくても篤哉のあの溺愛ぶりを見れば何とかなるのかなと思ってさ。いい機会だから俺も遅ればせながら自立しようかって。 …だから、その、一緒に住まないか?その、二人用のもう少し広い物件探してさ。俺、大学卒業後は、起業しようかと思ってるから、仕事部屋も欲しいんだ。…どうかな?」 俺は蓮の読み取れない表情を、探るように見つめたんだ。
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