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「想定外ですわ!」  私は神殿の隅でうめき声をあげました。  例の謁見から数日、なぜか私は毎日神殿内の掃除や下町での奉仕活動に勤しんでおります。ええ、デートに出かける聖女見習いの代打ですわ。  私、聖女の中では一番位が高いのですが。いくら神殿内は平等が基本とはいえ、もう少し敬っていただけないものかしら。 「聖女が恋愛する権利を手に入れた件の立役者だというのに、私だけが余り物とか想定外にもほどがあります」 「ジュリアちゃんにとっては残念かもしれないが、僕にとっては一安心かな」  まさか私がここまでモテない女だったなんて! 大見得を切った癖にこの有り様なんて、陛下も失笑ものではないでしょうか。 「ジュリアちゃんだなんて、やめてください。私はもういい大人です」 「ジュリアちゃんは、初めて出会ったあの頃から僕の可愛い小さなお姫さまだよ」 「はあ」  私の愚痴を笑顔でなだめているのは、スティーヴンさま。掃除用具を手にしていてもエレガントに見えるのは、さすが生粋の王族というところでしょう。王太子殿下と年の近い叔父ということもあり、私たちはかなり親しい間柄だったりします。むしろ婚約以来一度もデートをしたことのない王太子殿下よりも、ずっと私のことをご存知なのではないかしら。 「貴族社会においては、婚約破棄された令嬢は傷物ですものね。格下の男爵令嬢に殿下を奪われたというのも、下のものをうまくさばくことができなかったという意味でマイナスですし」 「そういうことではないんだけれどね」 「じゃあ、どういうことなのです」  けれど、スティーヴンさまは困ったように淡く微笑むばかり。 「ちなみにジュリアちゃんは、どのような男性がお好みなのかな?」 「話題を変えるおつもりですか?」 「いや、ただの興味本位だよ」  理想の男性、ですか。私は、幼い頃に憧れた理想の王子さまを思い出し、そっとかぶりを振りました。今さらですね、もう忘れると決めたことですもの。 「高望みはいたしません。私は、私だけを唯一としてくださる方と結婚したいのです」 「なるほど。必要なのは愛だけだと」 「だって、お金は聖女である私が稼ぎますもの。身分に関しても、とりたてて望むところはございませんし」 「ジュリアちゃん、それじゃあ金づるまっしぐらだよ」  ひ、ひどい。あんまりです。花から花へ飛び回る浮気な蝶のくせに、なんてことを言いやがるのでしょう。 「僕の可愛いお姫さまが、結婚詐欺にあったり、ヒモにたかられて身ぐるみはがされて不幸になるのを見るのは忍びないからね。バカップルごっこがしたいのなら、僕が相手になろう。その間に君は、結婚相手にふさわしい男を探すんだよ」 「……スティーヴンさまとバカップルごっこ? まさかこんな昼日中から寝室に行く気ですか?」 「うーん、それもまた捨てがたいけれど。あくまで、僕がやるのはいちゃラブの練習だからね。安心して」  安心できる要素がまったくないのでは? とはいえ千載一遇の機会ということで、遊び人な王弟殿下の申し出を受けることにしたのでした。
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