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(6)
「ジュリアちゃん、僕は結構君のために頑張ってきたつもりなんだけど……」
「好きでもないぼんくら王太子殿下と私の婚約を調えておいて、まだ言いますか!」
さらなる叫びに、ぎょっとしたような顔を見せるスティーヴンさま。なんですか、その初耳ですという顔は。
「え、でも、ジュリアちゃん、小さい頃から『王子さまと結婚する』ってみんなに宣言していたよね。そのために、筆頭聖女になれるように頑張るって」
「ええ、ええ、そうですよ。でもねえ、考えてみてください。この国の王族男子は、基本的にみんな王子さまなんですけど? 王太子殿下以外に、王子さまっていないんでしたっけ?」
困ったように脳内の王族男子を指折り数えるスティーヴンさま。ああ、もう、中年以上の王子さまは数えてくれなくて結構です!
「ジュリアちゃん、まさかとは思うけれど、ジュリアちゃんの好きな王子さまって……」
「ようやくですか! 脳ミソ腐ってませんか! その通りですよ。気がつけば隣に女性を選り取りみどりで侍らせている、ちゃらんぽらんで色ボケした不誠実そのもの。そんなあなたが、私は昔から好きなんです!」
心底びっくりしたと言わんばかりの顔がムカついて、そのお綺麗な顔の頬をぐにぐにと伸ばしてやりました。変顔をさせても美形度が下がらないなんて。一体、なんなのでしょう、この生き物は。
「つまり、君が『王子さまと結婚したい』と話していたのは……」
「あなたのことに決まっているでしょうが、スティーヴン王弟殿下」
げしげしと、お行儀悪く足をばたつかせていれば、突然周囲の景色が変わりました。お得意の魔法で、自室に転移されたみたいですね。
「小さい頃にお城のお庭で出会ったあなたが、初恋なんですよ!」
「君が幸せになるなら、何でもいいと思っていたんだ」
「急になんなんですか」
「君が好きなひとを見つけるまで、僕が隣にいる。場合によっては白い結婚をして、君と好きなひとの隠れ蓑になることもやぶさかではなかったんだ」
「スティーヴンさま、あなた、どれだけ私のことをクズだと思ってるんです」
「好きなひとの幸せのためなら、何でもできる献身的な男だよ、僕は」
「はあ?」
今度は私がすっとんきょうな声をあげる番でした。えーと、ごめんなさい、嘘でしょう。あの女性には困らない色男が、こんなに年の離れたちんちくりんを好きなはずが……。
「ジュリア、いくら僕がちゃらんぽらんでもね、年がら年中女好きの馬鹿の振りをするのは意外と疲れるんだよ」
「な、名前?」
いきなりの呼び捨てです。しかもなぜでしょう、驚くほど甘ったるく聞こえるその響き。腰砕けになりそうです。
「ね、ジュリア。せっかくお互いの気持ちがわかったんだもの。そのお祝いを、あるいは頑張ってきた僕へのご褒美をくれる?」
ちゃん付けを拒否してきた私ですが、それがいかに私を守ってくれていたのか、これからじっくりと理解することになったのでした。
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