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それぞれの道
男の霊はアイラのリュックから手を離し自転車から降りた。
「もしかして、早く止めて欲しかったの?」
アイラは曇る表情で霊に問い掛けた。
その問いに霊は泣きながら頷く。
『出来心だったッ!ひったくりなんてッしなければッ……もっとッ生きていたかったのにぃッ……』
男の霊は透ける両手で顔を覆い号泣する。
ジャックは再び十字架を霊の額に当てると……
「罰は十分受けた。反省の心をしっかり持っていれば、神は悪いようにはしない筈だ……」
静かな声で男に語り掛けた。
『ぁあ……救ってくれてッありがとう』
霊は涙声で感謝の言葉を述べると、白い光りと共に消えていった。
「良かった!あの人も救えたみたいだし、これで周辺に被害も出ないよね!?」
アルフィーが嬉しそうに話すと、ジャックも「ああ!」と笑顔を見せた。
ジャックに抱かれる仔猫のジャックも合わせる様に「ニ~ウ!」と鳴く。
「……………………………………」
二人と一匹が笑顔の中、アイラだけは何か腑に落ちない表情を浮かべていた。
「嬢ちゃん?どうかしたか?」
「うん、何故さっきイーサン神父は
自転車の霊を止めなかったのかな?って、放っておけば被害が増えるかもしれないのに……」
アイラが疑問を口にする。
「救おうとしたタイミング、俺達が嬢ちゃんに追い付いて……忘れたんじゃないか?」
ジャックは仔猫のジャックを撫でながら笑顔で推測してみた。
「思い出したらここへ戻って来るかもしれないよ?」
アルフィーが話すと……
「師匠様は忙しいからな……戻って来る前にこっちから「解決した」って伝えておいた方がいいな!」
ジャックは仔猫のジャックをアイラへ渡し、スマホを取り出した。
「師匠様、出るかな……?」
ジャックがイーサンへ電話を掛け始める。
「………………」
「……アイラ?」
まだ表情の硬いアイラにアルフィーが心配そうに声を掛けた。
「イーサン神父って……本当に……」
「あ!師匠様!僕ですジャックです!」
アイラが喋りかけたタイミングでイーサンへ電話が繋がった。
「実はさっき下り坂で自転車に乗った霊と遭遇して……」
『ああ……ああ!良かった青年!丁度そっちへ戻ろうとしてた!!俺としたことがお前と再会できた事に舞い上がったばっかりにッ!』
イーサンは『すっかり頭から抜けた』とジャックへ伝えた。
「やっぱり思った通りだ!心配しなくても僕と友人達で霊は救えましたから!」
『ああ――良かった!さすが俺の息子だ!よくやった助かったよ!』
イーサンの言葉にジャックは照れ笑いを浮かべた。
『すまん、これからまた急用でな!』
「ぁあ、それじゃまた!」
『またな青年!じゃなくて中年!』
「師匠様!」
『ハハハ!またな!」
通話はそこで終わった。
「はぁ――やっぱり師匠様、頭から抜けたらしい。忙しいから仕方ないな?」
ジャックはアイラとアルフィーに電話の内容を伝えた。
「そう……なら私達で解決できて良かったわね」
「だな!」
「そう言えばアイラ、さっきなんて言いかけたの?」
アルフィーは電話前にアイラが言いかけた事が気になり尋ねた。
「何でもない!それより私、ジャックを病院に連れて行こうと思うの!」
アイラは横の路地を指差し向かう方向を示した。
「俺が病院?」
「人間ジャックじゃなくて!この子よ!」
「ややこしだろッ!」
「僕もじいちゃんの仕事手伝わないと!」
アルフィーは坂下を指差した。
「マズイ!俺も仕事に戻らないと警部に絞められる!!」
ジャックは親指で坂上を示す。
「なら、また!」
「ええ、また!」
「じゃあ、またね!」
三人はそれぞれに向かうべき場所へと、歩き始めたのだった。
end
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