ふたて

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ふたて

「神父様?何かあったの……?」 ジャックが穴から上がったところで、不安げな表情のアルフィーが再び尋ねてきた。 「悪魔が暴走を始めた……祓いに行ってくる……」 「神父様だけで!?」 「ここを任せたいんだ。休みながらで良い、直ぐに終わらせて手伝いに戻る!」 ジャックの言葉にも不安が晴れないアルフィーだったが、無言で何度も頷いた。 「ジャックッ!」 アイラが穴から上がるとジャックを呼ぶ。 「お願いだから無茶はしないでッ無事に戻ってッ!」 「ああ、勿論だッ……」 直ぐに走り出すと思われたジャックだったが…… 「……………………」 「………………………………?」 「………………………………?」 妙に長い沈黙が続きまだ動こうとはしていなかった。 「…………………行かないの?」 アイラが不思議そうにジャックへ尋ねる。 「あぁいやッ!?行く、今行こと思ってたッ!!」 蒼白かったジャックの顔が一瞬で赤く染まった。 (またキスがくるかと思ったッ……) ジャックはあたふたしたまま逃げるように車を目指し走って行った。 「大丈夫かな?神父様……」 「信じましょ。私達はこの場を何とかしないと!」 「うん!」 アイラは再び穴の底へ戻り、アルフィーは上からバケツを降ろした。 同日 9:26 PM サーカステント前 テントの入り口は全て閉めきられ明かりも消されていた。 辺り一帯に不気味な暗闇が広がる。 テント近くには30tトラックも止められていた。 「もう子供を集めるのも充分だろッ!これ以上はいい加減警察にバレるッ!」 トラックの運転席から団長のエバンズが降りてきた。 『なら昔にお前が殺した男とガキの事をサツにバラすまでだ!』 エバンズへ告げたのは監守を殺し警察病院から抜け出した銃撃犯の男、その内にいる悪魔だった。 「お前がッ!悪魔のお前が殺させたんだッ!!殺すつもりなんて無かったッ!なのに……なんでこんな事にッ」 エバンズは涙ながらに声を上げると、頭を抱えトラックに項垂れた。 『光栄と思えッ!ガキは地獄でサタン様への捧げ物となるッ』 エバンズの嘆きをお構い無しに悪魔は笑いながらその場を離れようとした……タイミング。 「止まれッ警察だ!!」 ジャックが到着した。 拳銃を構えたジャックが男達に近付くと、団長だけが両手を上げた。 『神父擬きのッ糞警察がッ!!』 ジャックの姿を見るなり悪魔の男は顔に青筋を立て眼球が真っ黒に染まった。 「誘拐した子供達はどこだッ!?」 「ヒハッハハ――ッ!」 「どこだッ!!」 ジャックは団長を見て問い掛ける。 「……ぁあ……ッ……」 エンバスは子供達がいるであろう場所をゆっくり指差そうとした……瞬間。 『先に地獄へ行ってろ』 「ガッ!?」 「!?」 悪魔はエバンズの胸にナイフを投げ付けた。 「ァガッ」 「クソがッ!!」 ナイフはエバンズの心臓へ深々と刺さり彼はそのまま倒れた。 ジャックが倒れたエバンズへ駆け寄ろうとしたが…… 『シャアアアアッ!!』 「ッ!?」 ジャックの目の前へ悪魔が飛び込んで来た。 ジャックはエバンズの方へ走りながら十字架を悪魔へ向け掲げた。 「穢れたッ神父擬きがあああッ!!」 悪魔が十字架の力で一歩二歩と近付けないでいる隙に、ジャックは倒れたエバンズに駆け寄った。 「しっかりしろッ!子供達はどこだッ!?」 「………………………………」 エバンズに声を掛けながら首の脈を探すが、既に脈の動きは止まっていた。 『クカカカカカカカカッ!!』 悪魔はジャックを見据えると、涎を垂らしながら黒い瞳を剥き出しにし喉をならしていた。 ジャックは拳銃を仕舞い十字架のチェーンを右手に巻き付ける。 更にスーツの内ポケットから聖水の小瓶を取り出す。 「皆の主よ邪悪な霊との戦いにおいて、私たちをお護りください」 ジャックは祈りを唱え十字架へ口付けを落とすと共に、周囲へ聖水を散布する。 「御身の聖なる十字の印もて、われらよりすべての悪霊を立ち退かしめ給え 聖父と聖子と聖霊の御名によってッ!」 十字架を悪魔へ掲げ十字を描きながら、悪魔祓いの言葉を唱えた。 「アーメンッ!!」 同日 9:58 PM 公園 パーゴラ跡地 「ハァハァッ……どこに、どこにいるのッ!?」 アイラは今まだ穴の底を掘り進めていた。 「ッ――――ッアアッ!!」 アルフィーもバケツに入れられた土を上へと引き上げ続けている。 「ハァ……ッハァ、アルフィーッ!そろそろ代わりましょうかッ!?」 「ハァハッそ……だねッ」 アルフィーが脚立を降り始めると…… 「んッ!?」 異変を感じ途中で上を見上げた。 見上げているとアルフィーの頭と顔に土が落ちてきた。 「アルフィー?どうかした?」 急に止まったアルフィーにアイラが声を掛ける。 「上から土が……」 アルフィーが頭の上の土を叩いていると…… 「ちょっと何するのよッ!?何なのアンタ達ッ!?」 「アイラ?」 アイラが穴の上へ向かって叫んでいた。 アルフィーが脚立から上を見上げると、穴の上には四人の男達が立っていた。 男達はスコップで穴へ向かい土を落としている。 「アッアイラ!この人達ッ生きてないッ!!皆死んでる人だッ!!」 「ウソでしょッ!?」 アイラが男らの顔をよく見れば、額や胸に銃弾を受けた様な跡があり、そこからは大量のどす黒い血が流れていた。
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